2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧
優しい日だまりと、静寂(The calm and quiet sunny place) written by 蒲鉾さちこ 源氏が伺候した。 正月であっても来訪者は稀《まれ》で、 お付き役人の幾人だけが寂しい恰好《かっこう》をして、 力のないふうに事務を取っていた。 白馬《あおうま》の節…
悲哀 written by チョコミント 源氏が三条の宮邸を御訪問することも気楽にできるようになり、 宮のほうでも御自身でお話をあそばすこともあるようになった。 少年の日から思い続けた源氏の恋は 御出家によって解消されはしなかったが、 これ以上に御接近す…
桜の樹の下には written by ハシマミ 二条の院へ帰っても西の対へは行かずに、 自身の居間のほうに 一人臥《ぶ》しをしたが眠りうるわけもない。 ますます人生が悲しく思われて 自身も僧になろうという心の起こってくるのを、 そうしては東宮がおかわいそう…
湖底のUndine written by Ryo Lion 東宮のお使いも来た。 お別れの前に東宮のお言いになった言葉などが 宮のお心にまた新しくよみがえってくることによって、 冷静であろうとあそばすお気持ちも乱れて、 お返事の御挨拶を完全にお与えにならないので、 源氏…
❄️ 冬待人 written by のる❄️ 明るい月が空にあって、 雪の光と照り合っている庭をながめても、 院の御在世中のことが目に浮かんできて 堪えがたい気のするのを源氏はおさえて、 「何が御動機になりまして、 こんなに突然な御出家をあそばしたのですか」 と…
止まない雨を見ていた written by キュス 中宮は堅い御決心を兄宮へお告げになって、 叡山《えいざん》の座主《ざす》をお招きになって、 授戒のことを仰せられた。 伯父《おじ》君にあたる横川《よかわ》の僧都《そうず》が 帳中に参って お髪《ぐし》をお…
桜の樹の下には written by ハシマミ 今日の講師にはことに尊い僧が選ばれていて 「法華経はいかにして得し薪《たきぎ》こり 菜摘み水|汲《く》み仕へてぞ得し」 という歌の唱えられるころからは 特に感動させられることが多かった。 仏前に親王方も さまざ…
Petals of lotus written by こおろぎ 十二月の十幾日に中宮の御八講があった。 非常に崇厳《すうごん》な仏事であった。 五日の間どの日にも仏前へ新たにささげられる経は、 宝玉の軸に羅《うすもの》の絹の表紙の物ばかりで、 外包みの装飾などもきわめて…
巡る思い出 written by 蒲鉾さちこ どんなに苦しい心を申し上げてもお返事がないので、 そのかいのないのに私の心はすっかりめいり込んでいたのです。 あひ見ずて 忍ぶる頃の 涙をも なべての秋の しぐれとや見る 心が通うものでしたなら、 通っても来るも…
月読命 written by ハシマミ 中宮は悲しいお別れの時に、 将来のことをいろいろ東宮へ教えて行こうとあそばすのであるが、 深くもお心にはいっていないらしいのを哀れにお思いになった。 平生は早くお寝《やす》みになるのであるが、 宮のお帰りあそばすまで…
夕暮れ written by キュス 源氏は東宮の御勉学などのことについて奏上をしたのちに 退出して行く時 皇太后の兄である藤大納言の息子の 頭《とう》の弁《べん》という、 得意の絶頂にいる若い男は、 妹の女御のいる麗景殿《れいげいでん》に行く途中で源氏を…
追憶 music by しゃろう 二十日《はつか》の月がようやく照り出して、 夜の趣がおもしろくなってきたころ、 帝は、 「音楽が聞いてみたいような晩だ」 と仰せられた。 「私は今晩中宮が退出されるそうですから 御訪問に行ってまいります。 院の御遺言を承っ…
巡る思い出 written by 蒲鉾さちこ 帝はちょうどお閑暇《ひま》で、 源氏を相手に昔の話、 今の話をいろいろとあそばされた。 帝の御容貌は院によく似ておいでになって、 それへ艶《えん》な分子がいくぶん加わった、 なつかしみと柔らかさに満ちた方でまし…
桜の樹の下には written by ハシマミ 実際珍しいほどにきれいな紅葉であったから、 中宮も喜んで見ておいでになったが、 その枝に小さく結んだ手紙が一つついていた。 女房たちがそれを見つけ出した時、 宮はお顔の色も変わって、 まだあの心を捨てていない…
唐紅、枯葉散りて(Crimson red,dry leaves are fallen) music by 蒲鉾さちこ 夫人は幾日かのうちに一段ときれいになったように思われた。 高雅に落ち着いている中に、 源氏の愛を不安がる様子の見えるのが可憐であった。 幾人かの人を思う幾つかの煩悶《は…
悠久の彼方 written by のる 天台の経典六十巻を読んで、 意味の難解な所を僧たちに聞いたりなどして 源氏が寺にとどまっているのを、 僧たちの善行によって仏力《ぶつりき》で この人が寺へつかわされたもののように思って、 法師の名誉であると、下級の輩…
源氏はまた去年の野の宮の別れが このころであったと思い出して、 自分の恋を妨げるものは、 神たちであるとも思った。 むずかしい事情が間にあればあるほど情熱のたかまる癖を みずから知らないのである。 それを望んだのであったら加茂の女王との結婚は 困…
斎院のいられる加茂はここに近い所であったから 手紙を送った。 女房の中将あてのには、 『物思いがつのって、とうとう家を離れ、 こんな所に宿泊していますことも、 だれのためであるかとはだれもご存じのないことでしょう。』 などと恨みが述べてあった。 …
幾日かを外で暮らすというようなことを これまで経験しなかった源氏は 恋妻に手紙を何度も書いて送った。 出家ができるかどうかと試みているのですが、 寺の生活は寂しくて、 心細さがつのるばかりです。 もう少しいて 法師たちから教えてもらうことがあるの…
木立ちは紅葉をし始めて、 そして移ろうていく秋草の花の哀れな野をながめていては 家も忘れるばかりであった。 学僧だけを選んで討論をさせて聞いたりした。 場所が場所であるだけ人生の無常さばかりが思われたが、 その中でなお源氏は恨めしい人に 最も心…
お肩にゆらゆらとするお髪《ぐし》がきれいで、 お目つきの美しいことなど、 御成長あそばすにしたがって ただただ源氏の顔が一つまたここにできたとより思われないのである。 お歯が少し朽ちて黒ばんで見えるお口に笑みをお見せになる美しさは、 女の顔にし…
この方から離れて信仰の生活にはいれるかどうかと 御自身で疑問が起こる。 しかも御所の中の空気は、 時の推移に伴う人心の変化をいちじるしく見せて 人生は無常であるとお教えしないではおかなかった。 太后の復讐心に燃えておいでになることも面倒であった…
漢の初期の戚《せき》夫人が 呂后《りょこう》に 苛《さいな》まれたようなことまではなくても、 必ず世間の嘲笑を負わねばならぬ人に 自分はなるに違いないと 中宮はお思いになるのである。 これを転機にして 尼の生活にはいるのが いちばんよいことである…
【源氏物語220 第十帖 賢木32】 心細くて人間的な生活を捨てないから ますます悲しみが多いのである、 自分などは僧房の人になるべきであると、 こんな決心をしようとする時に いつも思われるのは 若い夫人のことであった。 優しく自分だけを頼みにして生き…
「逢ふことの 難《かた》きを今日に 限らずば なほ幾世をか歎《なげ》きつつ経ん どうなってもこうなっても私はあなたにつきまとっているのですよ」 宮は吐息《といき》をおつきになって、 長き世の 恨みを人に 残してもかつは 心をあだとしらなん とお言い…
この上で力で勝つことは なすに忍びない 清い気高さの備わった方であったから、 源氏は、 「私はこれだけで満足します。 せめて今夜ほどに接近するのをお許しくだすって、 今後も時々は私の心を聞いてくださいますなら、 私はそれ以上の無礼をしようとは思い…
驚きと恐れに 宮は前へひれ伏しておしまいになったのである。 せめて見返ってもいただけないのかと、 源氏は飽き足らずも思い、 恨めしくも思って、 お裾《すそ》を手に持って引き寄せようとした。 宮は上着を源氏の手にとめて、 御自身は外のほうへお退《の…
これだけでも召し上がるようにと思って、 女房たちが持って来たお菓子の台がある、 そのほかにも 箱の蓋などに感じよく調理された物が積まれてあるが、 宮はそれらにお気がないようなふうで、 物思いの多い様子をして 静かに一所をながめておいでになるのが…
宮は昼の御座へ出てすわっておいでになった。 御|恢復《かいふく》になったものらしいと言って、 兵部卿の宮もお帰りになり、 お居間の人数が少なくなった。 平生からごく親しくお使いになる人は多くなかったので、 そうした人たちだけが、 そこここの几帳…