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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【平家物語41 第2巻 大納言死去②】〜The Tale of the Heike🥀

難波次郎経遠も、

信俊の志に感じて直ぐに成親の所に案内した。

成親は、丁度今しも、都のことなぞ思い出しつつ、

側の者に、いろいろ想い出話をしていたところだったが、

都から信俊が訪ねて参りました、という知らせに、

「夢であろうか」と疑いながら、

急いで部屋の内へ招じ入れた。

 信俊が一歩足を踏み入れると、先ず粗末な部屋の作りが目に入った。

同時に、昔に変る墨染姿の成親を見出した時は、

いつか目の先《さき》がぼうっとかすんで、

成親の姿もはっきり目に映らぬほどであった。

漸く涙をおさめると、

信俊は奥方からの心のこもった言伝てをこまごまと伝え、

ふところから、

命にも換えてと大事に持ってきた手紙を差しあげた。

 さすがになつかしい奥方の筆跡を手にすると、

成親の手はぶるぶると震えるばかりで、

一向に読み出す事ができない。

ようように手紙を開いても、すぐに涙でかき曇って、

書いてある字もはっきりと見えないのである。

「子供達が、朝晩、余りに貴方の事をお慕いするので、

 私も身を切られるように辛く」

などという文句が、ところどころに読みとれるけれど、

こうやって

目のあたりになつかしい水茎《みずくき》のあとをみると、

その恋しさ、悲しさはつのるばかりで、

主従たがいに涙にむせんで言葉を交すこともできなかった。

 四、五日経った時、信俊は、

「お傍にいて、殿のご最後をお守りしとう思います」

とくり返し経遠に頼んだが、聞き入れられなかった。

成親も、半ば心頼みにしていたのだが、

今はもう諦めていた。

「早く帰った方がよかろう、

 私も近いうちに殺されるらしいが、

 死んだあとは私の後世でも弔っておくれ。

 これは奥方に渡してやってくれ、

 くれぐれも面倒をみてやってくれよ」

信俊が、

「それでは又伺いまする」

といって出ようとすると、成親は、

「しばらく、しばらく、もう一度戻って顔をみせてくれ」

と呼び返し、又暫くして信俊が腰をあげかけると、

何のかのといっては、

呼び戻すのであった。信俊も後髪は引かれる想いだが、

といって、いつまでもこんな事をくりかえしてもいられず、

泣くなく後を振り返り振り返り、別れを告げた。

奥方は、

成親の手紙の中に巻きこまれていた黒髪の一房をみて、

とてもたまらず泣き伏してしまった。

若君、姫君も母に取りすがって、声を立てて泣くのであった。

 

八月の十九日、大納言の死罪が決まった。

備前、備中の境にある吉備《きび》の中山が、

大納言 終焉《しゅうえん》の場所と言われる。

成親の最後の様子はいろいろ伝えられていて、

始め毒殺を計ったが失敗し、遂に二丈のがけの上から突き落し、

下に刺股《ひし》(刃物に柄をつけたもの)

をたててこれで体を貫いて死んだといわれる。

とにかく無慚《むざん》な殺し方であったらしい。

 夫の死を聞いた奥方は、今は生きていても甲斐はないと、

菩提院《ぼだいいん》という寺で、出家し、

成親の冥福を祈って暮すこととなった。

彼女は山城守敦方《やましろのかみあつかた》の娘で

後白河院の寵愛も一きわ深かったほど美しい人で、

後白河院がお気に入りの成親に下さったものであった。

華やかな夢も今は昔の物語、尼姿になった奥方と共に、

幼い子供達も、花を折り水をくんで、

ひたすら父の後世を弔うのであった。

🥀🎼#悲しみの果て、見失う光 written by #alaki paca

 

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