2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧
女院は今年の春の初めから ずっと病気をしておいでになって、 三月には御重体にもおなりになったので、 行幸などもあった。 陛下の院にお別れになったころは御幼年で、 何事も深くはお感じにならなかったのであるが、 今度の御大病については 非常にお悲しみ…
今年はだいたい静かでない年であった。 何かの前兆でないかと思われるようなことも 頻々《ひんぴん》として起こる。 日月星などの天象の上にも不思議が多く現われて 世間に不安な気がみなぎっていた。 天文の専門家や学者が研究して 政府へ報告する文章の中…
明石の入道も今後のいっさいのことは 神仏に任せるというようなことも言ったのであるが、 源氏の愛情、娘や孫の扱われ方などを知りたがって 始終使いを出していた。 報《しら》せを得て胸のふさがるようなこともあったし、 名誉を得た気のすることもあった。…
大井の山荘は風流に住みなされていた。 建物も普通の形式離れのした雅味のある家なのである。 明石は源氏が見るたびに 美が完成されていくと思う容姿を持っていて、 この人は貴女《きじょ》に何ほども劣るところがない。 身分から常識的に想像すれば、 あり…
どんなにこの子のことばかり考えているであろう、 自分であれば恋しくてならないであろう、 こんなかわいい子供なのだからと思って、 女王はじっと姫君の顔をながめていたが、 懐《ふところ》へ抱きとって、 美しい乳を飲ませると言って 口へくくめなどして…
源氏は姫君の様子をくわしく語っていた。 大井の山荘も源氏にとっては愛人の家にすぎないのであるが、 こんなふうにして泊まり込んでいる時もあるので、 ちょっとした菓子、強飯《こわいい》というふうな物くらいを 食べることもあった。 自家の御堂《みどう…
東の院の対《たい》の夫人も品位の添った暮らしをしていた。 女房や童女の服装などにも洗練されたよい趣味を見せていた。 明石の君の山荘に比べて近いことは 花散里《はなちるさと》の強味になって、 源氏は閑暇《ひま》な時を見計らってよくここへ来ていた…
山荘の人のことを絶えず思いやっている源氏は、 公私の正月の用が片づいたころのある日、 大井へ出かけようとして、 ときめく心に装いを凝らしていた。 桜の色の直衣《のうし》の下に美しい服を幾枚か重ねて、 ひととおり薫物《たきもの》が たきしめられた…
子さえ取ればあとは無用視するように 女が思わないかと気がかりに思って 年内にまた源氏は大井へ行った。 寂しい山荘住まいをして、 唯一の慰めであった子供に離れた女に同情して 源氏は絶え間なく手紙を送っていた。 夫人ももうこのごろではかわいい人に免…
袴着《はかまぎ》は たいそうな用意がされたのでもなかったが 世間並みなものではなかった。 その席上の飾りが雛《ひな》遊びの物のようで美しかった。 列席した高官たちなどはこんな日にだけ来るのでもなく、 毎日のように出入りするのであったから目だたな…
如月に紫宸殿で催された桜花の宴で、 光源氏は頭中将らと共に漢詩を作り舞を披露した。 宴の後、朧月夜に誘われふと入り込んだ弘徽殿で、 源氏は廊下から聞こえる歌に耳を澄ます。 照りもせず 曇りも果てぬ 春の夜の 朧月夜に似るものぞなき 源氏はその歌を…
【第7帖 紅葉賀 前半】 世間は朱雀院で開かれる紅葉賀に向けての準備でかまびすしい。 桐壺帝は最愛の藤壺が懐妊した喜びに酔いしれ、 一の院の五十歳の誕生日の式典という慶事を より盛大なものにしようという意向を示しているため、 臣下たちも舞楽の準備…
どうしてあの人に生まれて、 この人に生まれてこなかったか、 自分の娘として完全に瑕《きず》のない所へは なぜできてこなかったのかと、 さすがに残念にも源氏は思うのであった。 当座は母や祖母や、 大井の家で見馴れた人たちの名を呼んで泣くこともあっ…
暗くなってから着いた二条の院のはなやかな空気は どこにもあふれるばかりに見えて、 田舎に馴れてきた自分らがこの中で暮らすことは きまりの悪い恥ずかしいことであると、 二人の女は車から下りるのに躊躇《ちゅうちょ》さえした。 西向きの座敷が姫君の居…
源氏18歳正月頃~19歳正月 乳母子の大輔の命婦から亡き常陸宮の姫君の噂を聞いた源氏は、 「零落した悲劇の姫君」という幻想に憧れと好奇心を抱いて求愛した。 親友の頭中将とも競い合って逢瀬を果たしたものの、 彼女の対応の覚束なさは源氏を困惑させた。 …
姫君は無邪気に父君といっしょに車へ早く乗りたがった。 車の寄せられてある所へ明石は自身で姫君を抱いて出た。 片言の美しい声で、 袖をとらえて母に乗ることを勧めるのが悲しかった。 末遠き 二葉の松に 引き分かれ いつか木高き かげを見るべき とよくも…
この雪が少し解けたころに源氏が来た。 平生は待たれる人であったが、 今度は姫君をつれて行かれるかと思うことで、 源氏の訪れに胸騒ぎのする明石であった。 自分の意志で決まることである、 謝絶すればしいてとはお言いにならないはずである、 自分がしっ…
【源氏物語576 第19帖 薄雲7】雪や霙《みぞれ》の降る日が多くて、心細い気のする明石は、いろいろな形でせねばならない苦労の多い自分であると悲しんで、平生よりもしみじみ姫君を愛撫《あいぶ》していた。
こんなことを毎日言っているうちに十二月にもなった。 雪や霙《みぞれ》の降る日が多くて、心細い気のする明石は、 いろいろな形でせねばならない苦労の多い自分であると悲しんで、 平生よりもしみじみ姫君を愛撫《あいぶ》していた。 大雪になった朝、過去…
光源氏18歳3月から冬10月の話。 瘧(おこり、マラリア)を病んで加持(かじ)のために北山を訪れた源氏は、 通りかかった家で密かに恋焦がれる藤壺(23歳)の面影を持つ少女 (後の紫の上。10歳ほど)を垣間見た。 少女の大伯父の僧都によると彼女は藤壺の兄…
源氏はいよいよ 二条の院ですることになった姫君の袴着の吉日を選ばせて、 式の用意を命じていた。 式は式でも紫夫人の手へ姫君を渡しきりにすることは 今でも堪えがたいことに明石は思いながらも、 何事も姫君の幸福を先にして考えねばならぬと悲痛な決心を…
賢い人に聞いて見ても、占いをさせてみても、 二条の院へ渡すほうに姫君の幸運があるとばかり言われて、 明石は子を放すまいと固執する力が弱って行った。 源氏もそうしたくは思いながらも、 女の気持ちを尊重してしいて言うことはしなかった。 手紙のついで…
源氏17歳夏から10月。 従者藤原惟光の母親でもある乳母の見舞いの折、 隣の垣根に咲くユウガオの花に目を留めた源氏が取りにやらせたところ、 邸の住人が和歌で返答する。 市井の女とも思えない教養に興味を持った源氏は、 身分を隠して彼女のもとに通うよう…
光源氏17歳夏の話。 空蝉を忘れられない源氏は、 彼女のつれないあしらいにも却って思いが募り、 再び紀伊守邸へ忍んで行った。 そこで継娘(軒端荻)と碁を打ち合う空蝉の姿を覗き見し、 決して美女ではないもののたしなみ深い空蝉を やはり魅力的だと改め…
光源氏17歳の夏。 五月雨の夜、17歳になった光源氏のもとに、頭中将が訪ねてきた。 さらに左馬頭(さまのかみ)と藤式部丞(とうしきぶのじょう)も交えて、 4人で女性談義をすることになる。 この場面は慣例的に『雨夜の品定め』(あまよのしなさだめ)と呼…
光源氏の誕生から12歳までを描く。 どの帝の御代であったか、それほど高い身分ではない方で、 帝(桐壺帝)から大変な寵愛を受けた女性(桐壺更衣)がいた。 二人の間には輝くように美しい皇子が生まれたが、 他の妃たちの嫉妬や嫌がらせが原因か病気がちだ…
しかしまた気がかりでならないことであろうし、 つれづれを慰めるものを失っては、自分は何によって日を送ろう、 姫君がいるためにたまさかに訪ねてくれる源氏が、 立ち寄ってくれることもなくなるのではないかとも煩悶《はんもん》されて、 結局は自身の薄…
「あなたが賛成しないのはもっともだけれど、 継母の点で不安がったりはしないでおおきなさい。 あの人は私の所へ来てずいぶん長くなるのだが、 こんなかわいい者のできないのを寂しがってね、 前斎宮《ぜんさいぐう》などは幾つも年が違っていない方だけれ…
あなたがいやなら姫君だけでもそうさせてはどう。 こうしておくことは将来のためにどうかと思う。 私はこの子の運命に予期していることがあるのだから、 その暁を思うともったいない。 西の対《たい》の人が姫君のことを知っていて、非常に見たがっているの…
光源氏31歳冬から32歳秋の話。 明石の御方は悩みぬいた末、 母尼君の説得もあって姫君を源氏に委ねることを決断する。 雪の日に源氏が姫君を迎えに訪れ、 明石の御方は涙ながらにそれを見送った。 二条院では早速盛大な袴着が行われ、 紫の上も今は姫君の可…
【源氏物語570 第19帖 薄雲 1】源氏の冷淡に思われることも地理的に斟酌をしなければならないと自分を納得させていた明石の上。男の心を顕わに見なければならないことは苦痛であろうと彼女は躊躇していた。
冬になって来て川沿いの家にいる人は 心細い思いをすることが多く、 気の落ち着くこともない日の続くのを、源氏も見かねて、 「これではたまらないだろう、 私の言っている近い家へ引っ越す決心をなさい」 と勧めるのであったが、 「宿変へて待つにも見えず…