2023-06-01から1日間の記事一覧
お肩にゆらゆらとするお髪《ぐし》がきれいで、 お目つきの美しいことなど、 御成長あそばすにしたがって ただただ源氏の顔が一つまたここにできたとより思われないのである。 お歯が少し朽ちて黒ばんで見えるお口に笑みをお見せになる美しさは、 女の顔にし…
この方から離れて信仰の生活にはいれるかどうかと 御自身で疑問が起こる。 しかも御所の中の空気は、 時の推移に伴う人心の変化をいちじるしく見せて 人生は無常であるとお教えしないではおかなかった。 太后の復讐心に燃えておいでになることも面倒であった…
漢の初期の戚《せき》夫人が 呂后《りょこう》に 苛《さいな》まれたようなことまではなくても、 必ず世間の嘲笑を負わねばならぬ人に 自分はなるに違いないと 中宮はお思いになるのである。 これを転機にして 尼の生活にはいるのが いちばんよいことである…
【源氏物語220 第十帖 賢木32】 心細くて人間的な生活を捨てないから ますます悲しみが多いのである、 自分などは僧房の人になるべきであると、 こんな決心をしようとする時に いつも思われるのは 若い夫人のことであった。 優しく自分だけを頼みにして生き…
「逢ふことの 難《かた》きを今日に 限らずば なほ幾世をか歎《なげ》きつつ経ん どうなってもこうなっても私はあなたにつきまとっているのですよ」 宮は吐息《といき》をおつきになって、 長き世の 恨みを人に 残してもかつは 心をあだとしらなん とお言い…
この上で力で勝つことは なすに忍びない 清い気高さの備わった方であったから、 源氏は、 「私はこれだけで満足します。 せめて今夜ほどに接近するのをお許しくだすって、 今後も時々は私の心を聞いてくださいますなら、 私はそれ以上の無礼をしようとは思い…
驚きと恐れに 宮は前へひれ伏しておしまいになったのである。 せめて見返ってもいただけないのかと、 源氏は飽き足らずも思い、 恨めしくも思って、 お裾《すそ》を手に持って引き寄せようとした。 宮は上着を源氏の手にとめて、 御自身は外のほうへお退《の…
これだけでも召し上がるようにと思って、 女房たちが持って来たお菓子の台がある、 そのほかにも 箱の蓋などに感じよく調理された物が積まれてあるが、 宮はそれらにお気がないようなふうで、 物思いの多い様子をして 静かに一所をながめておいでになるのが…
宮は昼の御座へ出てすわっておいでになった。 御|恢復《かいふく》になったものらしいと言って、 兵部卿の宮もお帰りになり、 お居間の人数が少なくなった。 平生からごく親しくお使いになる人は多くなかったので、 そうした人たちだけが、 そこここの几帳…