木立ちは紅葉をし始めて、
そして移ろうていく秋草の花の哀れな野をながめていては
家も忘れるばかりであった。
学僧だけを選んで討論をさせて聞いたりした。
場所が場所であるだけ人生の無常さばかりが思われたが、
その中でなお源氏は恨めしい人に
最も心を惹かれている自分を発見した。
朝に近い月光のもとで、
僧たちが閼伽《あか》を仏に供える仕度をするのに、
からからと音をさせながら、
菊とか紅葉とかをその辺いっぱいに折り散らしている。
こんなことは、ちょっとしたことではあるが、
僧にはこんな仕事があって退屈を感じる間もなかろうし、
未来の世界に希望が持てるのだと思うとうらやましい、
自分は自分一人を持てあましているではないかなどと
源氏は思っていた。
律師が尊い声で
「念仏衆生《ねんぶつしゆじやう》
摂取不捨《せつしゆふしや》」
と唱えて勤行《ごんぎょう》をしているのがうらやましくて、
この世が自分に捨てえられない理由はなかろうと思うのといっしょに
紫の女王《にょおう》が気がかりになったというのは、
たいした道心でもないわけである。
🌸🎼 Chilly written by Kyaai🌸
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