第十六帖 関屋(せきや) 源氏物語
息子たちが、当分は、 「あんなに父が頼んでいったのだから」 と表面だけでも言っていてくれたが、 空蝉の堪えられないような意地の悪さが追い追いに見えて来た。 世間ありきたりの法則どおりに 継母はこうして苦しめられるのであると思って、 空蝉はすべて…
恨めしかった点でも、 恋しかった点でも源氏には忘れがたい人であったから、 なお おりおりは 空蝉の心を動かそうとする手紙を書いた。 そのうち常陸介《ひたちのすけ》は 老齢のせいか病気ばかりするようになって、 前途を心細がり、 悲観してしまい、 息子…
「あれから長い時間がたっていて、 きまりの悪い気もするが、 忘れない私の心ではいつも現在の恋人のつもりでいるよ。 でもこんなことをしてはいっそう嫌われるのではないかね」 こう言って源氏は渡した。 佐はもったいない気がしながら受け取って姉の所へ持…
佐《すけ》を呼び出して、 源氏は姉君へ手紙をことづてたいと言った。 他の人ならもう忘れていそうな恋を、 なおも思い捨てない源氏に右衛門佐は驚いていた。 あの日私は、 あなたとの縁は よくよく前生で堅く結ばれて来たものであろうと感じましたが、 あな…
源氏が石山寺を出る日に右衛門佐が迎えに来た。 源氏に従って寺へ来ずに、 姉夫婦といっしょに京へはいってしまったことを 佐《すけ》は謝した。 少年の時から非常に源氏に愛されていて、 源氏の推薦で官につくこともできた恩もあるのであるが、 源氏の免職…
九月の三十日であったから、 山の紅葉は濃く淡《うす》く紅を重ねた間に、 霜枯れの草の黄が混じって見渡される逢坂山の関の口から、 また さっと一度に出て来た 襖姿《あおすがた》の侍たちの旅装の厚織物や くくり染めなどは一種の美をなしていた。 源氏の…
京から以前 紀伊守《きいのかみ》であった息子 その他の人が迎えに来ていて 源氏の石山詣《もう》でを告げた。 途中が混雑するであろうから、 こちらは早く逢坂山を越えておこうとして、 常陸介は夜明けに近江《おうみ》の宿を立って 道を急いだのであるが、…
以前の伊予介《いよのすけ》は 院がお崩《かく》れになった翌年 常陸介《ひたちのすけ》になって任地へ下ったので、 昔の帚木《ははきぎ》もつれて行った。 源氏が須磨《すま》へ引きこもった噂《うわさ》も、 遠い国で聞いて、悲しく思いやらないのではなか…
源氏が帰京した翌年、常陸介(元伊予介)が任期を終えて、 妻空蝉と共に戻ってきた。 石山寺へ参詣途中の源氏は逢坂関で、空蝉の一行に巡り会う。 源氏は懐かしさに空蝉の弟右衛門佐(元小君)を呼び寄せ、 空蝉へ文を送った。 その後も二人は文を交わしたが…