2023-06-03から1日間の記事一覧
追憶 music by しゃろう 二十日《はつか》の月がようやく照り出して、 夜の趣がおもしろくなってきたころ、 帝は、 「音楽が聞いてみたいような晩だ」 と仰せられた。 「私は今晩中宮が退出されるそうですから 御訪問に行ってまいります。 院の御遺言を承っ…
巡る思い出 written by 蒲鉾さちこ 帝はちょうどお閑暇《ひま》で、 源氏を相手に昔の話、 今の話をいろいろとあそばされた。 帝の御容貌は院によく似ておいでになって、 それへ艶《えん》な分子がいくぶん加わった、 なつかしみと柔らかさに満ちた方でまし…
桜の樹の下には written by ハシマミ 実際珍しいほどにきれいな紅葉であったから、 中宮も喜んで見ておいでになったが、 その枝に小さく結んだ手紙が一つついていた。 女房たちがそれを見つけ出した時、 宮はお顔の色も変わって、 まだあの心を捨てていない…
唐紅、枯葉散りて(Crimson red,dry leaves are fallen) music by 蒲鉾さちこ 夫人は幾日かのうちに一段ときれいになったように思われた。 高雅に落ち着いている中に、 源氏の愛を不安がる様子の見えるのが可憐であった。 幾人かの人を思う幾つかの煩悶《は…
悠久の彼方 written by のる 天台の経典六十巻を読んで、 意味の難解な所を僧たちに聞いたりなどして 源氏が寺にとどまっているのを、 僧たちの善行によって仏力《ぶつりき》で この人が寺へつかわされたもののように思って、 法師の名誉であると、下級の輩…