斎院のいられる加茂はここに近い所であったから
手紙を送った。
女房の中将あてのには、
『物思いがつのって、とうとう家を離れ、
こんな所に宿泊していますことも、
だれのためであるかとはだれもご存じのないことでしょう。』
などと恨みが述べてあった。
当の斎院には、
かけまくも 畏《かしこ》けれども そのかみの
秋思ほゆる 木綿襷《ゆふだすき》かな
昔を今にしたいと思いましてもしかたのないことですね。
自分の意志で取り返しうるもののように。
となれなれしく書いた浅緑色の手紙を、
榊《さかき》に木綿《ゆう》をかけ
神々《こうごう》しくした枝につけて送ったのである。
中将の返事は、
同じような日ばかりの続きます退屈さから
よく昔のことを思い出してみるのでございますが、
それによってあなた様を
聯想《れんそう》することもたくさんございます。
しかしここでは何も現在へは
続いて来ていないのでございます、
別世界なのですから。』
まだいろいろと書かれてあった。
女王のは木綿《ゆう》の片《はし》に、
そのかみやいかがはありし 木綿襷《ゆふだすき》
心にかけて 忍ぶらんゆゑ
とだけ書いてあった。
斎院のお字には細かな味わいはないが、
高雅で漢字のくずし方など
以前よりももっと巧みになられたようである。
ましてその人自身の美はどんなに成長していることであろうと、
そんな想像をして胸をとどろかせていた。
神罰を思わないように
🌸🎼 眠るクラゲ written by MATSU🌸
少納言のホームページ 源氏物語&古典 syounagon-web ぜひご覧ください🪷
https://syounagon-web-1.jimdosite.com
🪷聴く古典文学 少納言チャンネルは、聴く古典文学動画です。チャンネル登録お願いします🪷