2024-11-01から1ヶ月間の記事一覧
こうして二人並んで身を横たえていることで、 源氏の心は昔がよみがえったようにも思われるのである。 自身のことではあるが、これは軽率なことであると考えられて、 反省した源氏は、人も不審を起こすであろうと思って、 あまり夜も更《ふ》かさないで帰っ…
「なぜそんなに私をお憎みになる。 今まで私はこの感情を上手《じょうず》におさえていて、 だれからも怪しまれていなかったのですよ。 あなたも人に悟らせないようにつとめてください。 もとから愛している上に、そうなればまた愛が加わるのだから、 それほ…
そこに置かれてあった箱の蓋《ふた》に、 菓子と橘《たちばな》の実を混ぜて盛ってあった中の、 橘を源氏は手にもてあそびながら、 「橘のかをりし袖《そで》によそふれば変はれる身とも思ほえぬかな 長い年月の間、どんな時にも恋しく思い出すばかりで、 慰…
気にかかる玉鬘を源氏はよく見に行った。 しめやかな夕方に、 前の庭の若楓《わかかえで》と柏《かしわ》の木がはなやかに繁り合っていて、 何とはなしに爽快《そうかい》な気のされるのをながめながら、 源氏は「和しまた清し」と詩の句を口ずさんでいたが…
源氏は別れぎわに玉鬘の言ったことで、 いっそうその人を可憐に思って、夫人に話すのであった。 「不思議なほど調子のなつかしい人ですよ。 母であった人はあまりに反撥《はんぱつ》性を欠いた人だったけれど、 あの人は、物の理解力も十分あるし、美しい才…
こう源氏はまじめに言っていたが、 玉鬘はどう返事をしてよいかわからないふうを続けているのも さげすまれることになるであろうと思って言った。 「まだ物心のつきませんころから、 親というものを目に見ない世界にいたのでございますから、 親がどんなもの…
「私がいろいろと考えたり、言ったりしていても、 あなたにこうしたいと思っておいでになることがないのであろうかと、 気づかわしい所もあります。 内大臣に名のって行くことも、まだ結婚前のあなたが、 長くいっしょにいられる夫人や子供たちの中へはいっ…
〜新春第一日の空の完全にうららかな光のもとには、 どんな家の庭にも雪間の草が緑のけはいを示すし、 春らしい霞《かすみ》の中では、 芽を含んだ木の枝が生気を見せて煙っているし、 それに引かれて人の心ものびやかになっていく。 まして玉を敷いたと言っ…
五月雨の頃、兵部卿宮から玉鬘に文が届き、源氏はそれに返事を書かせた。 喜び勇んで六条院にやってきた兵部卿宮の前で、 源氏は几帳の内に蛍を放ち、その光で玉鬘の姿を浮かび上がらせて見せた。 予想以上の美しさに心を奪われた兵部卿宮は想いを和歌で訴え…
【源氏物語767 第24帖 胡蝶11〈こちょう〉】玉鬘の君は、紫夫人などの感化を受け、柔らかな、繊細な美が一挙一動に現われ、華やかな美人になっていた。人の妻にさせては後悔が残るであろうと源氏は思った。
派手な薄色の小袿《こうちぎ》に撫子《なでしこ》色の細長を 着ている取り合わせも若々しい感じがした。 身の取りなしなどに難はなかったというものの、 以前は田舎の生活から移ったばかりのおおようさが見えるだけのものであった。 紫夫人などの感化を受け…
右大将が高官の典型のようなまじめな風采《ふうさい》をしながら、 恋の山には孔子も倒れるという諺《ことわざ》を ほんとうにして見せようとするふうな熱意のある手紙を書いているのも 源氏にはおもしろく思われた。 そうした幾通かの中に、 薄青色の唐紙の…
衣がえをする初夏は、 空の気持ちなども理由なしに感じのよい季節であるが、 閑暇《ひま》の多い源氏はいろいろな遊び事に時を使っていた。 玉鬘のほうへ男性から送って来る手紙の多くなることに興味を持って、 またしても西の対へ出かけてはそれらの懸想文…
そんなことをあまりこまごまと記述することは 読者にうるさいことであるから省略する。 毎日のようにこうした遊びをして暮らしている六条院の人たちであったから、 女房たちもまた幸福であった。 各夫人、姫君の間にも手紙の行きかいが多かった。 玉鬘《たま…
紫の女王の手紙は子息の源中将が持って来た。 『花園の胡蝶《こてふ》をさへや下草に秋まつ虫はうとく見るらん』 というのである。 中宮はあの紅葉《もみじ》に対しての歌であると微笑して見ておいでになった。 昨日 招かれて行った女房たちも春をおけなしに…
【源氏物語762 第24帖 胡蝶6】仏前へ花が供せられるのであったが、美しい童女八人に、蝶と鳥を形どった服装をさせ、鳥は銀の花瓶に桜のさしたのを持たせ、蝶には金の花瓶に山吹をさしたのを持たせてあった。
今朝《けさ》の管絃楽はまたいっそうおもしろかった。 この日は中宮が僧に行なわせられる読経《どきょう》の初めの日であったから、 夜を明かした人たちは、 ある部屋部屋《へやべや》で休息を取ってから、 正装に着かえてそちらへ出るのも多かった。 障《さ…
兵部卿の宮も長く同棲しておいでになった夫人を亡くしておしまいになって、 もう三年余りも寂しい独身生活をしておいでになるのであったから、 最も熱心な求婚者であった。 今朝《けさ》もずいぶん酔ったふうをお作りになって、 藤《ふじ》の花などを簪《か…
終夜音楽はあった。 呂《ろ》の楽を律へ移すのに 「喜春楽《きしゅんらく》」が奏されて、兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は 「青柳《あおやぎ》」を二度繰り返してお歌いになった。 それには源氏も声を添えた。夜が明け放れた。 この朝ぼらけの鳥のさえずりを…
風吹けば浪《なみ》の花さへ色見えてこや名に立てる山吹の崎《さき》 春の池や井手の河瀬《かはせ》に通ふらん岸の山吹底も匂《にほ》へり 亀《かめ》の上の山も訪《たづ》ねじ船の中に老いせぬ名をばここに残さん 春の日のうららにさして行く船は竿《さを》…
竜頭鷁首《りゅうとうげきしゅ》の船はすっかり唐風に装われてあって、 梶取《かじと》り、棹取《さおと》りの童侍《わらわざむらい》は 髪を耳の上でみずらに結わせて、 これも支那《しな》風の小童に仕立ててあった。 大きい池の中心へ船が出て行った時に…
空蝉《うつせみ》の尼君の住んでいる所へ源氏は来た。 そこの主人《あるじ》らしくここは住まずに、 目だたぬ一室にいて、住居《すまい》の大部分を仏間に取った空蝉が 仏勤めに傾倒して暮らす様子も哀れに見えた。 経巻の作りよう、仏像の飾り、ちょっとし…
【🪷10分で聴く源氏物語 第23帖 初音②】親王方も高官達も 六条院の新年宴会に出席した。音楽の遊びがあり贈り物にに六条院にのみよくする華奢が見えた。皆きらびやかにしているが、源氏に準じる人はいない。
源氏はまだようやく曙《あけぼの》ぐらいの時刻に南御殿へ帰った。 こんなに早く出て行かないでもいいはずであるのにと、 明石はそのあとでやはり物思わしい気がした。 紫の女王はまして、失敬なことであると、 不快に思っているはずの心がらを察して、 「ち…
新春第一日の空の完全にうららかな光のもとには、 どんな家の庭にも雪間の草が緑のけはいを示すし、 春らしい霞《かすみ》の中では、 芽を含んだ木の枝が生気を見せて煙っているし、 それに引かれて人の心ものびやかになっていく。 まして玉を敷いたと言って…
このとき、大将軍頭中将重衡は般若寺の門の前に立って下知した。 「闇《くら》し、火をつけよ」 命をうけた播磨国の住人、 福井《ふくい》の荘《しょう》の下司《げし》次郎大夫友方、 楯を割るとこれに火をつけ松明《たいまつ》として付近の住家に火を放っ…
「隠忍もこれまでじゃ、奈良を討て」 たちまち大軍が揃えられ、 大将軍に頭中将重衡《とうのちゅうじょうしげひら》、 中宮亮通盛《ちゅうぐうのすけみちもり》が任ぜられて、 総兵力四万余騎奈良へ実力行使と進発した。 一方奈良の大衆老若合わせて七千余人…
京では、奈良興福寺が三井寺と手を組み、高倉宮を受け入れたり、 あるいは迎えに兵を出すなどの行為は、明らかに朝敵であると断じた。 奈良には、平家が攻め寄せるとの噂が伝わったので大衆は一斉に騒ぎ出した。 これを聞いた関白はことを穏便に計ろうと 有…
各夫人の見物席には、 いずれ劣らぬ美しい色を重ねた女房の袖口が出ていて、 曙《あけぼの》の空に春の花の錦《にしき》を 霞《かすみ》が長く一段だけ見せているようで、 これがまた見ものであった。 舞い人は、「高巾子《こうこじ》」という脱俗的な曲を演…
今年《ことし》の正月には男踏歌《おとことうか》があった。 御所からすぐに朱雀《すざく》院へ行ってその次に六条院へ舞い手はまわって来た。 道のりが遠くてそれは夜の明け方になった。 月が明るくさして 薄雪の積んだ六条院の美しい庭で行なわれる踏歌が…
空蝉《うつせみ》の尼君の住んでいる所へ源氏は来た。 そこの主人《あるじ》らしくここは住まずに、 目だたぬ一室にいて、住居《すまい》の大部分を仏間に取った空蝉が 仏勤めに傾倒して暮らす様子も哀れに見えた。 経巻の作りよう、仏像の飾り、ちょっとし…
新年騒ぎの少し静まったころになって源氏は東の院へ来た。 末摘花《すえつむはな》の女王《にょおう》は無視しがたい身分を思って、 形式的には非常に尊貴な夫人としてよく取り扱っているのである。 昔たくさんあった髪も、年々に少なくなって、 しかも今は…
春の花を誘う夕風がのどかに吹いていた。 前の庭の梅が少し咲きそめたこの黄昏《たそがれ》時に、 楽音がおもしろく起こって来た。「この殿」が最初に歌われて、 はなやかな気分がまず作られたのである。 源氏も時々声を添えた。 福草《さきぐさ》の三つ葉四…