今年《ことし》の正月には男踏歌《おとことうか》があった。
御所からすぐに朱雀《すざく》院へ行ってその次に六条院へ舞い手はまわって来た。
道のりが遠くてそれは夜の明け方になった。
月が明るくさして
薄雪の積んだ六条院の美しい庭で行なわれる踏歌がおもしろかった。
舞や音楽の上手《じょうず》な若い役人の多いころで、
笛なども巧みに吹かれた。
ことにここでのできばえを皆晴れがましく思っているのである。
他の二夫人らにも来て見物することを源氏が勧めてあったので、
南の御殿の左右の対や渡殿《わたどの》を席に借りて皆来ていた。
東の住居《すまい》の西の対の玉鬘《たまかずら》の姫君は南の寝殿に来て、
こちらの姫君に面会した。
紫夫人も同じ所にいて几帳《きちょう》だけを隔てて玉鬘と話した。
踏歌の組は朱雀院で皇太后の宮のほうへ行っても一回舞って来たのであったから、
時間がおそくなり、夜も明けてゆくので、
饗応《きょうおう》などは簡単に済ますのでないかと思っていたが、
普通以上の歓待を六条院では受けることになった。
光の強い一月の暁の月夜に雪は次第に降り積んでいった。
松風が高い所から吹きおろしてきてすさまじい感じにももう一歩でなりそうな庭に
もう折り目もなくなった青色の上着に白襲《しろがさね》を下にしただけの服装に、
見ばえのない綿を頭にかぶっている舞い手が出ているだけのことも、
所がらかおもしろくて、
命も延びるほどに観衆は思った。
源氏の子息の中将と内大臣の公子たちが舞い手の中ではことにはなやかに見えた。
ほのぼのと東の空が白んでゆく光に、
やや大降りに降る雪の影が見えて寒い中で、
「竹川」を歌って、右に寄り、左に集まって行く舞い手の姿、
若々しいその歌声などは、絵にかいて残すことのできないのが遺憾である。
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