「なぜそんなに私をお憎みになる。
今まで私はこの感情を上手《じょうず》におさえていて、
だれからも怪しまれていなかったのですよ。
あなたも人に悟らせないようにつとめてください。
もとから愛している上に、そうなればまた愛が加わるのだから、
それほど愛される恋人というものはないだろうと思われる。
あなたに恋をしている人たちより以下のものに私を見るわけはないでしょう。
こんな私のような大きい愛であなたを包もうとしている者は
この世にないはずなのですから、
私が他の求婚者たちの熱心の度にあきたらないもののあるのはもっともでしょう」
と源氏は言った。
変態的な理屈である。雨はすっかりやんで、
竹が風に鳴っている上に月が出て、しめやかな気になった。
女房たちは親しい話をする主人たちに遠慮をして遠くへ去っていた。
始終|逢《あ》っている間柄ではあるが、
こんなよい機会もまたとないような気がしたし、
抑制したことが口へ出てしまったあとの興奮も手伝って、
都合よく着ならした上着は、
こんな時にそっと脱ぎすべらすのに音を立てなかったから、
そのまま玉鬘の横へ寝た。
玉鬘は情けない気がした。
人がどう言うであろうと思うと非常に悲しくなった。
実父の所であれば、
愛は薄くてもこんな禍《わざわ》いはなかったはずであると思うと涙がこぼれて、
忍ぼうとしても忍びきれないのである。
玉鬘がそんなにも心を苦しめているのを見て、
「そんなに私を恐れておいでになるのが恨めしい。
それまでに親しんでいなかった人たちでも、
夫婦の道の第一歩は、人生の掟《おきて》に従って、
いっしょに踏み出すのではありませんか。
もう馴染《なじ》んでから長くなる私が、あなたと寝て、
それが何恐ろしいことですか。
これ以上のことを私は断じてしませんよ。
ただこうして私の恋の苦しみを一時的に慰めてもらおうとするだけですよ」
と源氏は言ったが、
なお続いて物哀れな調子で、恋しい心をいろいろに告げていた。
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