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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【🌹源氏物語754 初音13】空蝉の尼君の住んでいる所へ源氏は来た。そこの主人らしくここは住まずに、目だたぬ一室にいて、住まいの大部分を仏間に取った空蝉が仏勤めに傾倒して暮らす様子も哀れに見えた。

 空蝉《うつせみ》の尼君の住んでいる所へ源氏は来た。

そこの主人《あるじ》らしくここは住まずに、

目だたぬ一室にいて、住居《すまい》の大部分を仏間に取った空蝉が

仏勤めに傾倒して暮らす様子も哀れに見えた。

経巻の作りよう、仏像の飾り、ちょっとした閼伽《あか》の器具などにも

空蝉のよい趣味が見えてなつかしかった。

青鈍《あおにび》色の几帳《きちょう》の感じのよい蔭《かげ》にすわっている尼君の

袖口の色だけにはほかの淡い色彩も混じっていた。

源氏は涙ぐんでいた。

「松が浦島(松が浦島|今日《けふ》ぞ見るうべ心あるあまも住みけり)だと思って

神聖視するのにとどめておかねばならないあなたなのですね。

昔から何という悲しい二人でしょう。

しかしこうして逢《あ》ってお話しするくらいのことは永

久にできるだけの因縁があるのですね」

などと言った。

空蝉の尼君も物哀れな様子で、

「ただ今こんなふうに御信頼して暮らさせていただきますことで、

私は前生に御縁の深かったことを思っております」

 と言う。

「あなたを虐《しいた》げた過去の追憶に苦しんで、

おりおり今でも仏にお詫《わ》びを言わねばならないのが私です。

しかしおわかりになりましたか、

ほかの男は私のように純なものではないということを、

あなたはそれからの経験でお知りになっただろうと思う」

 継息子《ままむすこ》のよこしまな恋に苦しめられたことを、

源氏は聞いていたのであろうと女は恥ずかしく思った。

「こんなにみじめになりました晩年をお見せしておりますことで

だれの過去の罪も清算されるはずでございます。

これ以上の報いがどこにございましょう」

 と言って、空蝉《うつせみ》は泣いてしまった。

昔よりも深味のできた品のよい所が見え、

過去の恋人で現在の尼君として

別世界のものに扱うだけでは満足のできかねる気も源氏はしたが、

恋の戯れを言いかけうる相手ではなかった。

いろいろな話をしながらも、

せめてこれだけの頭のよさがあの人にあればよいのにと

末摘花の住居《すまい》のほうがながめられた。

こんなふうで源氏の保護を受けている女は多かった。

だれの所も洩《も》らさず訪問して、

「長く来られない時もありますが、心のうちでは忘れているのではないのです。

ただ生死の別れだけが私たちを引き離すものだと思いますが、

その命というものを考えると、実に心細くなりますよ」

 などとなつかしい調子で恋人たちを慰めていた。

皆ほどほどに源氏は愛していた。

女に対して驕慢《きょうまん》な心にもついなりそうな境遇にいる源氏ではあるが、

末々の恋人にまで誠意を忘れず持ってくれることに、

それらの人々は慰められて年月を送っていた。

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