新年騒ぎの少し静まったころになって源氏は東の院へ来た。
末摘花《すえつむはな》の女王《にょおう》は無視しがたい身分を思って、
形式的には非常に尊貴な夫人としてよく取り扱っているのである。
昔たくさんあった髪も、年々に少なくなって、
しかも今は白い筋の多く混じったこの人を、
面と向かって見ることが堪えられず気の毒で、源氏はそれをしなかった。
柳の色は女が着て感じのよいものでないと思われたが、
それはここだけのことで、着手が悪いからである。
陰気な黒ずんだ赤の掻練《かいねり》の糊気《のりけ》の強い一かさねの上に、
贈られた柳の織物の小袿《こうちぎ》を着ているのが寒そうで気の毒であった。
重ねに仕立てさせる服地も贈られたのであるがどうしたのであろう。
鼻の色だけは春の霞《かすみ》にも
これは紛れてしまわないだろうと思われるほどの赤いのを見て、
源氏は思わず歎息《たんそく》をした。
手はわざわざ几帳《きちょう》の切れを丁寧に重ね直した。
かえって末摘花は恥ずかしがっていないのである。
こうして変わらぬ愛をかける源氏に真心から信頼している様子に同情がされた。
こんなことにも常識の不足した点のあるのを、哀れな人であると源氏は思って、
自分だけでもこの人を愛してやらねばというふうに考えるところに
源氏の善良さがうかがえるのである。話す声なども寒そうに慄《ふる》えていた。
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