いずれ劣らぬ美しい色を重ねた女房の袖口が出ていて、
曙《あけぼの》の空に春の花の錦《にしき》を
霞《かすみ》が長く一段だけ見せているようで、
これがまた見ものであった。
舞い人は、「高巾子《こうこじ》」という脱俗的な曲を演じたり、
自由な寿詞《じゅし》に滑稽味《こっけいみ》を取り混ぜたりもして、
音楽、舞曲としてはたいして価値のないことで役を済ませて、
慣例の纏頭《てんとう》である綿を一袋ずつ頭にいただいて帰った。
夜がすっかり明けたので、二夫人らは南御殿を去った。
源氏はそれからしばらく寝て八時ごろに起きた。
「中将の声は弁《べん》の少将の美音にもあまり劣らなかったようだ、
今は不思議に優秀な若者の多い時代なのですね。
昔は学問その他の堅実な方面にすぐれた人が多かったろうが、
芸術的のことでは近代の人の敵ではないらしく思われる。
私は中将などをまじめな役人に仕上げようとする教育方針を取っていて、
私自身のまじめでありえなかった名誉を回復させたく思っていたが、
やはりそれだけでは完全な人間に成りえないのだから、
芸術的な所をなくさせぬようにしなければならないのだと知った。
どんな欲望も抑制したまじめ顔がその人の全部であってはいやなものですよ」
などと源氏は夫人に言って、息子をかわいく思うふうが見えた。
万春楽《ばんしゅんがく》を口ずさみにしていた源氏は、
「奥さんがたがはじめてこちらへ来た記念に、もう一度集まってもらって、
音楽の合奏をして遊びたい気がする。
私の家《うち》だけの後宴《ごえん》があるべきだ」
と言って、秘蔵の楽器をそれぞれ袋から出して塵《ちり》を払わせたり、
ゆるんだ絃《げん》を締めさせたりなどしていた。
夫人たちはそのことをどんなに晴れがましく思ったことであろう。
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