兵部卿の宮も長く同棲しておいでになった夫人を亡くしておしまいになって、
もう三年余りも寂しい独身生活をしておいでになるのであったから、
最も熱心な求婚者であった。
今朝《けさ》もずいぶん酔ったふうをお作りになって、
藤《ふじ》の花などを簪《かざし》にさして、
風流な乱れ姿を見せておいでになるのである。
源氏も計画どおりになっていくと、心では思うのであるが、
つとめて素知らぬ顔をしていた。
酒杯のまわって来た時、迷惑な色をお見せになって宮は、
「私がある望みを持っていないのでしたら、逃げ出してしまう所ですよ。もういけません」
と言って、手をお出しになろうとしない。
紫のゆゑに心をしめたれば淵《ふち》に身投げんことや惜しけき
とお言いになってから、源氏に、
「あなたはお兄様なのですからお助けください」
と源氏にその杯をお譲りになるのであった。源氏は満面に笑《え》みを見せながら言う。
淵に身を投げつべしやとこの春は花のあたりを立ちさらで見ん
源氏がぜひと引きとめるので、宮もお帰りになることができなかった。
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