今朝《けさ》の管絃楽はまたいっそうおもしろかった。
この日は中宮が僧に行なわせられる読経《どきょう》の初めの日であったから、
夜を明かした人たちは、
ある部屋部屋《へやべや》で休息を取ってから、
正装に着かえてそちらへ出るのも多かった。
障《さわ》りのある人はここから家へ帰った。
正午ごろに皆中宮の御殿へ参った。
殿上役人などは残らずそのほうへ行った。
源氏の盛んな権勢に助けられて、
中宮は百官の全《まった》い尊敬を得ておいでになる形である。
春の女王《にょおう》の好意で、仏前へ花が供せられるのであったが、
それはことに美しい子が選ばれた童女八人に、
蝶《ちょう》と鳥を形どった服装をさせ、
鳥は銀の花瓶《かびん》に桜のさしたのを持たせ、
蝶には金の花瓶に山吹をさしたのを持たせてあった。
桜も山吹も並み並みでなくすぐれた花房《はなぶさ》のものがそろえられてあった。
南の御殿の山ぎわの所から、船が中宮の御殿の前へ来るころに、
微風が出て瓶の桜が少し水の上へ散っていた。
うららかに晴れたその霞の中から、
この花の使者を乗せた船の出て来た形は艶《えん》であった。
天幕をこちらの庭へ移すことはせずに、
左へ出た廊を楽舎のようにして、
腰掛けを並べて楽は吹奏されていたのである。
童女たちは階梯《きざはし》の下へ行って花を差し上げた。
香炉を持って仏事の席を練っていた公達《きんだち》がそれを取り次いで仏前へ供えた。
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