終夜音楽はあった。
呂《ろ》の楽を律へ移すのに
「喜春楽《きしゅんらく》」が奏されて、兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は
「青柳《あおやぎ》」を二度繰り返してお歌いになった。
それには源氏も声を添えた。夜が明け放れた。
この朝ぼらけの鳥のさえずりを、
中宮は物を隔ててうらやましくお聞きになったのであった。
常に春光の満ちた六条院ではあるが、
外来者の若い興奮をそそる対象のないことをこれまで物足らず思った人もあったが、
西の対の姫君なる人が出現して、
これという欠点のない人であること、
源氏が愛して大事にかしずくことが世間に知れた今日では、
源氏の予期したとおりに思慕を寄せる者、求婚者になる者が多かった。
わが地位に自信のある人たちは、
女房などの中へ手蔓《てづる》を求めて姫君へ手紙を送る方法もあるし、
直接に意志を源氏へ表明することも可能であるが、
そうした大胆なことはできずに、
心だけを悩ましている若い公達《きんだち》などもあることと思われる。
その中にはほんとうのことを知らずに、内大臣家の中将などもあるようである。
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