衣がえをする初夏は、
空の気持ちなども理由なしに感じのよい季節であるが、
閑暇《ひま》の多い源氏はいろいろな遊び事に時を使っていた。
玉鬘のほうへ男性から送って来る手紙の多くなることに興味を持って、
またしても西の対へ出かけてはそれらの懸想文《けそうぶみ》を
源氏は読むのであった。
あるものは返事を書けと源氏が勧めたりするのを玉鬘は苦しく思った。
兵部卿《ひょうぶきょう》の宮がまだ何ほどの時間が経過しているのでもないのに、
もうあせって恨みらしいことをたくさんお書きになった手紙を、
ほかの手紙の中から見いだして心からおかしそうに源氏は笑った。
「私は若い時からおおぜいの兄弟たちの中で、
この宮とだけは最も親密な交際ができたのだが、
恋愛問題については私に話されたことがなかったし、
私もその方面のことは別にしてあったものだが、
今になって宮の恋のお悩みに触れるということで、私は満足もでき、
また物哀れな気にもなる。
ぜひこのかたなどにはお返事をお書きなさい。
少し見識を備えた女が、
交際を始める価値のある男と言ってはこの宮以外にあるとも思えないかたなのですからね」
などと若い女の心を惹《ひ》きそうなことを源氏は言うのであるが、
玉鬘はただ恥ずかしくばかり聞いていた。
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