源氏は別れぎわに玉鬘の言ったことで、
いっそうその人を可憐に思って、夫人に話すのであった。
「不思議なほど調子のなつかしい人ですよ。
母であった人はあまりに反撥《はんぱつ》性を欠いた人だったけれど、
あの人は、物の理解力も十分あるし、美しい才気も見えるし、
安心されないような点が少しもない」
この源氏の賞《ほ》め言葉を聞いていて夫人は、
良人《おっと》が単に養女として愛する以外の愛をその人に持つことになっていく経路を、
源氏の性格から推して察したのである。
「理解力のある方にもせよ、
全然あなたを信用してたよっていてはどんなことにおなりになるかとお気の毒ですわ」
と女王《にょおう》は言った。
「私は信頼されてよいだけの自信はあるのだが」
「いいえ、私にも経験があります。
悩ましいような御様子をお見せになったことなど、
そんなこと私はいくつも覚えているのですもの」
微笑をしながら言っている夫人の神経の鋭敏さに驚きながら、
源氏は、
「あなたのことなどといっしょにするのはまちがいですよ。
そのほかのことで私は十分あなたに信用されてよいこともあるはずだ」
と言っただけで、
やましい源氏はもうその話に触れようとしないのであったが、
心の中では、
妻の疑いどおりに自分はなっていくのでないかという不安を覚えていた。
同時にまた若々しいけしからぬ心であると反省もしていたのである。
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