気にかかる玉鬘を源氏はよく見に行った。
しめやかな夕方に、
前の庭の若楓《わかかえで》と柏《かしわ》の木がはなやかに繁り合っていて、
何とはなしに爽快《そうかい》な気のされるのをながめながら、
源氏は「和しまた清し」と詩の句を口ずさんでいたが、
玉鬘の豊麗な容貌《ようぼう》が、それにも思い出されて、西の対へ行った。
手習いなどをしながら気楽な風でいた玉鬘が、
起き上がった恥ずかしそうな顔の色が美しく思われた。
その柔らかいふうにふと昔の夕顔が思い出されて、
源氏は悲しくなったまま言った。
「あなたにはじめて逢《あ》った時には、
こんなにまでお母様に似ているとは見えなかったが、
それからのちは時々あなたをお母様だと思うことがあるのですよ。
その点ではずいぶん私を悲しがらせるあなただ。
中将が少しも死んだ母に似た所がないものだから、
親子というものはそれくらいのものかと思っていましたがね、
あなたのような人もまたあるのですね」
涙ぐんでいるのであった。
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