「私がいろいろと考えたり、言ったりしていても、
あなたにこうしたいと思っておいでになることがないのであろうかと、
気づかわしい所もあります。
内大臣に名のって行くことも、まだ結婚前のあなたが、
長くいっしょにいられる夫人や子供たちの中へはいって行って幸福であるかどうかが
疑問だと思って私は躊躇《ちゅうちょ》しているのです。
女として普通に結婚をしてから出会う機会をとらえたほうがいいと思うのですが、
その結婚相手ですね、兵部卿の宮は表面独身ではいられるが、
女好きな方で、通ってお行きになる人の家も多いようだし、
また邸には召人という女房の中の愛人が幾人もいるということですからね、
そんな関係というものは、
夫人になる人が嫉妬を見せないで自然に矯正させる努力さえすれば、
世間へ醜態も見せずに穏やかに済みますが、
そうした気持ちになれない性格の人は、
そんなつまらぬことから夫婦仲がうまくゆかずに、
良人《おっと》の愛を失ってしまう結果にもなりますから、ある覚悟がいりますよ。
右大将は若い時からいっしょにいた夫人が年上であることなどから、
その人と別れるためにも、新たな結婚をしたがっているのですが、
しかし、それも面倒の添った縁だと人の言うそれですからね、
だから私も相手をだれとも仮定して考えて見ることができないのです。
こんなことは親にもはっきりと意見の述べられない問題なのだが、
あなたもひどくまだ若いというのではないから、
自身の結婚する相手について判断のできない訳はないと思う。
私をあなたのお母様だと思って、何でも相談してくだすったらいいと思う。
あなたに不満足な思いをさせるような結婚はさせたくないと私は思っているのです」
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