2024-08-01から1ヶ月間の記事一覧
「いろんな歌の手引き草とか、 歌に使う名所の名とかの集めてあるのを始終見ていて、 その中にある言葉を抜き出して使う習慣のついている人は、 それよりほかの作り方ができないものと見える。 常陸《ひたち》の親王のお書きになった 紙屋紙《かんやがみ》の…
【源氏物語740 第22帖 玉鬘40】末摘花女王の手紙は香の薫りのする檀紙の、少し年数物になって厚く膨れたのへ、「どういたしましょう、 いただき物はかえって私の心を暗くいたします。」と書かれてあった。
末摘花女王《すえつむはなにょおう》の手紙は 香の薫《かお》りのする檀紙《だんし》の、 少し年数物になって厚く膨《ふく》れたのへ、 「どういたしましょう、 いただき物はかえって私の心を暗くいたします。」 『着て見ればうらみられけりから衣《ごろも》…
色に出して見せないのであるが、 源氏はそのほうを見た時に、 夫人の心の平静でないのを知った。 「もう着る人たちの容貌《きりょう》を考えて 着物を選ぶことはやめることにしよう、 もらった人に腹をたてさせるばかりだ。 どんなによくできた着物でも物質…
夫人もいっしょに見ていて、 「皆よくできているのですから、 お召しになるかたのお顔によく似合いそうなのを 見立てておあげなさいまし。 着物と人の顔が離れ離れなのはよくありませんから」 と言うと、源氏は笑って、 「素知らぬ顔であなたは着る人の顔を…
【源氏物語737 第22帖 玉鬘37】 新年の室内装飾、春の衣裳を配る時にも、源氏は玉鬘を尊貴な夫人らと同じに取り扱った。女王は裁縫係の所にでき上がっている物も、手もとで作らせた物も皆 源氏に見せた。
年末になって、新年の室内装飾、春の衣裳を配る時にも、 源氏は玉鬘を尊貴な夫人らと同じに取り扱った。 どんなに思いのほかによい趣味を知った人と見えても、 またどんなまちがった物の取り合わせをするかもしれぬという 不安な気持ちもあって、 玉鬘のほう…
源氏は子息の中将にも、こうこうした娘を呼び寄せたから、 気をつけて交際するがよいと言ったので、 中将はすぐに玉鬘の御殿へ訪ねて行った。 「つまらない人間ですが、 こんな弟がおりますことを御念頭にお置きくださいまして、 御用があればまず私をお呼び…
「野蛮な地方に長くいたのだから、 気の毒なものに仕上げられているだろうと私は軽蔑していたが、 こちらがかえって恥ずかしくなるほどでしたよ。 娘にこうした麗人を持っているということを 世間へ知らせるようにして、 よくおいでになる兵部卿《ひょうぶき…
年を数えてみて、 「親子であってこんなに長く逢えなかったというようなことは 例もないでしょう。恨めしい運命でしたね。 もうあなたは少女のように 恥ずかしがってばかりいてよい年でもないのですから、 今日までの話も私はしたいのに、 なぜあなたは黙っ…
【源氏物語733 第22帖 玉鬘33】「灯があまりに暗い。恋人の来る夜のようではないか。 親の顔は見たいものだと聞いているが。 貴女はそう思いませんか」と言って、源氏は几帳を少し横のほうへ押しやった。
源氏の通って来る所の戸口を右近があけると、 「この戸口をはいる特権を私は得ているのだね」 と笑いながらはいって、縁側の前の座敷へすわって、 「灯があまりに暗い。恋人の来る夜のようではないか。 親の顔は見たいものだと聞いているがこの明りではどう…
「母親だった人はとても善良な女でしたよ。 あなたも優しい人だから安心してお預けすることができるのです」 などと源氏が言った。 「母親らしく世話を焼かせていただくことも これまではあまり少なくて退屈でしたから、 いいことだと思います、ごいっしょに…
姫君が六条院へ移って行くことは簡単にもいかなかった。 まずきれいな若い女房と童女を捜し始めた。 九州にいたころには相当な家の出でありながら、 田舎へ落ちて来たような女を見つけ次第に雇って、 姫君の女房に付けておいたのであるが、 脱出のことがにわ…
「困るね。生きている人のことでは私のほうから 進んで聞いておいてもらわねばならないこともありますがね。 たとえこんな時にでも昔のそうした思い出を話すのは あなたが特別な人だからですよ」 こう言っている源氏には故人を思う情に堪えられない様子が見…
【源氏物語729 第22帖 玉鬘29】姫君自身は、実父の手から少しの贈り物でも得られたのなら嬉しいであろうが、知らない人と交渉を始めようなどとは意外であると贈り物を受けることを苦しく思うふうであった。
姫君自身は、こんなりっぱな品々でなくても、 実父の手から少しの贈り物でも得られたのならうれしいであろうが、 知らない人と交渉を始めようなどとは意外であるというように、 それとなく言って、 贈り物を受けることを苦しく思うふうであったが、 右近は母…
「短いはかない縁だったと、私はいつもあの人のことを思っている。 この家に集まって来ている奥さんたちもね、 あの時にあの人を思ったほどの愛を感じた相手でもなかったのが、 皆あの人のように短命でないことだけで、 私の忘れっぽい男でないのを見届けて…
「私はあの人を六条院へ迎えることにするよ。 これまでも何かの場合によく私は、 あの人の行くえを失ってしまったことを思って 暗い心になっていたのだからね。 聞き出せばすぐにその運びにしなければならないのを、 怠っていることでも済まない気がする。 …