竜頭鷁首《りゅうとうげきしゅ》の船はすっかり唐風に装われてあって、
梶取《かじと》り、棹取《さおと》りの童侍《わらわざむらい》は
髪を耳の上でみずらに結わせて、
これも支那《しな》風の小童に仕立ててあった。
大きい池の中心へ船が出て行った時に、女房たちは外国の旅をしている気がして、
こんな経験のかつてない人たちであるから非常におもしろく思った。
中島の入り江になった所へ船を差し寄せて眺望をするのであったが、
ちょっとした岩の形なども皆絵の中の物のようであった。
あちらにもそちらにも霞《かすみ》と同化したような花の木の梢《こずえ》が
錦《にしき》を引き渡していて、
御殿のほうははるばると見渡され、そちらの岸には枝をたれて柳が立ち、
ことに派手《はで》に咲いた花の木が並んでいた。
よそでは盛りの少し過ぎた桜もここばかりは真盛《まさか》りの美しさがあった。
廊を廻った藤《ふじ》も船が近づくにしたがって鮮明な紫になっていく。
池に影を映した山吹《やまぶき》もまた盛りに咲き乱れているのである。
水鳥の雌雄の組みが幾つも遊んでいて、
あるものは細い枝などをくわえて低く飛び交《か》ったりしていた。
鴛鴦《おしどり》が波の綾《あや》の目に紋を描いている。
写生しておきたい気のする風景ばかりが次々に目の前へ現われてくるのであったから、
仙人《せんにん》の遊戯を見ているうちに斧《おの》の木の柄が朽ちた話と
同じような恍惚《こうこつ》状態になって女房たちは長い時間水上にいた。
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