紫の女王の手紙は子息の源中将が持って来た。
『花園の胡蝶《こてふ》をさへや下草に秋まつ虫はうとく見るらん』
というのである。
中宮はあの紅葉《もみじ》に対しての歌であると微笑して見ておいでになった。
昨日 招かれて行った女房たちも春をおけなしになることはできますまいと、
すっかり春に降参して言っていた。
うららかな鶯《うぐいす》の声と鳥の楽が混じり、
池の水鳥も自由に場所を変えてさえずる時に、
吹奏楽が終わりの急な破《は》になったのがおもしろかった。
蝶《ちょう》ははかないふうに飛び交《か》って、
山吹が垣《かき》の下に咲きこぼれている中へ舞って入る。
中宮の亮《すけ》をはじめとしてお手伝いの殿上役人が
手に手に宮の纏頭《てんとう》を持って童女へ賜わった。
鳥には桜の色の細長、
蝶へは山吹襲《やまぶきがさね》をお出しになったのである。
偶然ではあったがかねて用意もされていたほど適当な賜物《たまもの》であった。
伶人《れいじん》への物は白の一襲《ひとかさね》、
あるいは巻き絹などと差があった。
中将へは藤《ふじ》の細長を添えた女の装束をお贈りになった。
中宮のお返事は、
昨日は泣き出したくなりますほどうらやましく思われました。
『こてふにも誘はれなまし心ありて八重山吹を隔てざりせば』
というのであった。
すぐれた貴女《きじょ》がたであるが歌はお上手《じょうず》でなかったのか、
ほかのことに比べて遜色《そんしょく》があるとこの御贈答などでは思われる。
昨日のことであるが、招かれて行った女房たちの、
中宮のほうから来た人たちには意匠のおもしろい贈り物がされたのであった。
少納言のホームページ 源氏物語&古典 少納言の部屋🪷も ぜひご覧ください🌟https://syounagon.jimdosite.com