そのうちに美しい後ろ姿をした一人の、
非常に疲労した様子で、
夏の初めの薄絹の単衣《ひとえ》のような物を上から着て、
隠された髪の透き影のみごとそうな人を右近は見つけた。
お気の毒であるとも、悲しいことであるとも思ってながめたのである。
少し歩き馴《な》れた人は皆らくらくと上の御堂《みどう》へ着いたが、
九州の一行は姫君を介抱《かいほう》しながら坂を上るので、
初夜の勤めの始まるころにようやく御堂へ着いた。
御堂の中は非常に混雑していた。
右近が取らせてあったお籠り部屋は右側の仏前に近い所であった。
九州の人の頼んでおいた僧は無勢力なのか西のほうの間で、
仏前に遠かった。
「やはりこちらへおいでなさいませ」
と言って、右近が召使をよこしたので、
男たちだけをそのほうに残して、
おとどは右近との邂逅《かいこう》を簡単に豊後介へ語ってから、
右近の部屋のほうへ姫君を移した。
「私などつまらない女ですが、
ただ今の太政大臣様にお仕えしておりますのでね、
こんな所に出かけていましても
不都合はだれもしないであろうと安心していられるのですよ。
地方の人らしく見ますと、
生意気にお寺の人などは軽蔑《けいべつ》した扱いをしますから、
姫君にもったいなくて」
右近はくわしい話もしたいのであるが、
仏前の経声の大きいのに妨げられて、やむをえず仏を拝んでだけいた。
この方をお捜しくださいませ、
お逢《あ》わせくださいませとお願いしておりましたことを
おかなえくださいましたから、
今度は源氏の大臣《おとど》がこの方を子にしてお世話をなさりたいと
熱心に思召《おぼしめ》すことが実現されますようにお計らいくださいませ、
そうしてこの方が幸福におなりになりますように。
と祈っているのであった。
🌙🎼#月へ続く道 written by #すもち
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