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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記44 第1巻 藤夜叉⑩】「さても、分らぬことだらけぞ」一日ごとに、駒は、東国へ近づいていたが、 都の空へ遠ざかるほど、彼が学びえた見聞の判断にも、 視野をかえた懐疑の雲が生じていた。


  淀川舟で見かけた一朝臣の姿も、

伊吹のばさら大名の言なども、

顧みれば、なにか偶然めいた感である。

それが一世の指向とは俄にも信じ難い。

 さればとて、現朝廷が、

これまでのごとき無気力な朝廷でないことだけは、

確かだった。

——またいま、堂上に流行の学風や新思想が、

その目標とするところは、

幕府なき天皇一元の復古にあるのだという ささやきも、

「……さもあらんか」

 と、うなずかれる。

 だが、都のちまたは、酒屋繁昌やら田楽流行である。

この正月風景にしろ、そんな兆《きざ》しは、

上下どこにも見られはしない。

すでに一部の若公卿は、密勅を帯びて、

諸州を潜行しているほどにまで、事はすすんでいると、

道誉や左近らは説いたが、はたして、それもどこまでが真か。

——もし事実なら、

その彼らがあんな婆娑羅な奢《おご》りにぬくもっていること自体

すでにおかしい。

いかに北条幕府のみだれが末期症状であろうとも、

あれで、“世直し”を行《や》ろうなどは片腹いたい。

「さても、分らぬことだらけぞ」

 一日ごとに、駒は、東国へ近づいていたが、

都の空へ遠ざかるほど、彼が学びえた見聞の判断にも、

視野をかえた懐疑の雲が生じていた。

 旅も早や、すでに三河路《みかわじ》。

 右馬介が駒をとめて。

「若殿、吉良へお立寄りなされますか」

「いや寄るまい。他日他日」

 そこもよそに、通りすぎる。

 三河|幡豆郡《はずぐん》地方には、

足利一族の吉良、西条、一色、今川、東条などの諸党がいた。

——が、海道もここまで来れば、富士、箱根はもう眼のさき。

はや帰心ひたぶるな高氏だった。

 かくて、二月の初め。

 足利ノ庄の曹司又太郎高氏は、

およそ九十日ぶりで、忍び遍歴の旅を了え、わが領国の土をふんだ。

 そして、父母のいる屋形の地、

一族郎党のむらがり住む足利の町へ、

もう一歩で入ろうとする渡良瀬川を眼の前にしたときである。

思いがけないものに彼は待たれた。

——そこに屯《たむろ》していた一群の騎馬は、

たちまち高氏主従をとりかこんで、下馬を命じ、

彼に向って、執権高時の名による問罪ノ状を読みきかせた。

🌺🎼#camping in rain written by #のる

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