大井の山荘は風流に住みなされていた。
建物も普通の形式離れのした雅味のある家なのである。
明石は源氏が見るたびに
美が完成されていくと思う容姿を持っていて、
この人は貴女《きじょ》に何ほども劣るところがない。
身分から常識的に想像すれば、
ありうべくもないことと思うであろうが、
それも世間と相いれない偏狭な親の性格などが
禍《わざわ》いしているだけで、
家柄などは決して悪くはないのであるから、
かくあるのが自然であるとも源氏は思っていた。
逢っている時が短くて、
すぐに帰邸を思わねばならぬことを苦しがって、
「夢のわたりの浮き橋か」
(うち渡しつつ物をこそ思へ)と源氏は歎かれて、
十三絃の出ていたのを引き寄せ、
明石の秋の深夜に聞いた
上手な琵琶《びわ》の音《ね》もおもい出されるので、
自身はそれを弾《ひ》きながら、女にもぜひ弾けと勧めた。
明石は少し合わせて弾いた。
なぜこうまでりっぱなことばかりのできる女であろうと
源氏は思った。
🪷🎼On the way written by のる
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