「行くさきを はるかに祈る 別れ路《ぢ》に
たへぬは老いの 涙なりけり
不謹慎だ私は」
と言って、
落ちてくる涙を拭《ぬぐ》い隠そうとした。
尼君が、京時代の左近中将の良人《おっと》に、
「もろともに 都は出《い》でき このたびや
一人野中の 道に惑はん」
と言って泣くのも同情されることであった。
信頼をし合って過ぎた年月を思うと、
どうなるかわからぬ娘の愛人の心を頼みにして、
見捨てた京へ帰ることが尼君をはかなくさせるのであった。
明石が、
「いきてまた 逢ひ見んことを いつとてか
限りも知らぬ 世をば頼まん
送ってだけでもくださいませんか」
と父に頼んだが、
それは事情が許さないことであると
入道は言いながらも途中が気づかわれるふうが見えた。
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