りっぱな風采の源氏が静かに歩を運ぶかたわらで
先払いの声が高く立てられた。
源氏は車へ頭中将《とうのちゅうじょう》、
兵衛督《ひょうえのかみ》などを陪乗させた。
「つまらない隠れ家を発見されたことはどうも残念だ」
源氏は車中でしきりにこう言っていた。
「昨夜はよい月でございましたから、
嵯峨のお供のできませんでしたことが口惜しくてなりませんで、
今朝《けさ》は霧の濃い中をやって参ったのでございます。
嵐山《あらしやま》の紅葉はまだ早うございました。
今は秋草の盛りでございますね。
某朝臣《ぼうあそん》は
あすこで小鷹狩《こたかがり》を始めて
ただ今いっしょに参れませんでしたが、どういたしますか」
などと若い人は言った。
「今日はもう一日 桂《かつら》の院で遊ぶことにしよう」
と源氏は言って、車をそのほうへやった。
桂の別荘のほうではにわかに客の饗応の仕度が始められて、
鵜《う》飼いなども呼ばれたのであるが
その人夫たちの高いわからぬ会話が
聞こえてくるごとに海岸にいたころの漁夫の声が
思い出される源氏であった。
🪷秋の足音 written by のる 🪷
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