この家の様子と自身とが調和の取れないことを思って、
もっともらしく口実を作って源氏は帰ろうとした。
自身の植えた松ではないが、
昔に比べて高くなった木を見ても、
年月の長い隔たりが源氏に思われた。
そして源氏の自身の今日の身の上と
逆境にいたころとが思い比べられもした。
「藤波《ふじなみ》の打ち過ぎがたく見えつるは
まつこそ宿のしるしなりけれ
数えてみればずいぶん長い月日になることでしょうね。
物哀れになりますよ。
またゆるりと悲しい旅人だった時代の話も聞かせに来ましょう。
あなたもどんなに苦しかったかという辛苦の跡も、
私でなくては聞かせる人がないでしょう。
とまちがいかもしれぬが私は信じているのですよ」
などと源氏が言うと、
年を経て待つしるしなきわが宿は
花のたよりに過ぎぬばかりか
と低い声で女王は言った。
身じろぎに知れる姿も、
袖に含んだにおいも
昔よりは感じよくなった気がすると源氏は思った。
🪷冥の庭園 written by ハシマミ🪷
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