明け方近くなって古い回想から湿った心持ちになった源氏は
杯を取りながら帥《そつ》の宮に語った。
「私は子供の時代から学問を熱心にしていましたが、
詩文の方面に進む傾向があると御覧になったのですか、
院がこうおっしゃいました、
文学というものは世間から重んぜられるせいか、
そのほうのことを専門的にまでやる人の長寿と幸福を
二つともそろって得ている人は少ない。
不足のない身分は持っているのであるから、
あながちに文学で名誉を得る必要はない。
その心得でやらねばならないって。
以来私に本格的な学問をいろいろとおさせになりましたが、
できが悪い課目もなく、
またすぐれた深い研究のできたこともありませんでした。
絵を描くことだけは、それは大きいことではありませんが、
満足のできるほど精神を集中させて描いて見たいという希望が
おりおり起こったものですが、
思いがけなく放浪者になりました時に、
はじめて大自然の美しさにも接する機会を得まして、
描くべき物は十分に与えられたのですが、
技巧がまずくて、
思いどおりの物を紙上に表現することはできませんでした。
そんなものですからこれだけをお目にかけることは
恥ずかしくていたされませんから、
今度のような機会に持ち出しただけなのですが、
私の行為が突飛《とっぴ》なように評されないかと心配しております」
🪷花夜行 written by のる🪷
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