最後の番に左から須磨の巻が出てきたことによって
中納言の胸は騒ぎ出した。
右もことに最後によい絵巻が用意されていたのであるが、
源氏のような天才が
清澄な心境に達した時に写生した風景画は
何者の追随をも許さない。
判者の親王をはじめとしてだれも皆涙を流して見た。
その時代に同情しながら想像した須磨よりも、
絵によって教えられる浦住まいはもっと悲しいものであった。
作者の感情が豊かに現われていて、
現在をもその時代に引きもどす力があった。
須磨からする海のながめ、寂しい住居《すまい》、
崎々浦々が皆あざやかに描かれてあった。
草書で仮名混じりの文体の日記がその所々には混ぜられてある。
身にしむ歌もあった。
だれも他の絵のことは忘れて恍惚となってしまった。
圧巻はこれであると決まって左が勝ちになった。
🪷月読命 written by ハシマミ🪷
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