三位《さんみ》中将も来て、
酒が出たりなどして夜がふけたので
源氏は泊まることにした。
女房たちをその座敷に集めて話し合うのであったが、
源氏の隠れた恋人である中納言の君が、
人には言えない悲しみを一人でしている様子を
源氏は哀れに思えてならないのである。
皆が寝たあとに源氏は中納言を慰めてやろうとした。
源氏の泊まった理由はそこにあったのである。
翌朝は暗い間に源氏は帰ろうとした。
明け方の月が美しくて、
いろいろな春の花の木が皆盛りを失って、
少しの花が若葉の蔭《かげ》に咲き残った庭に、
淡く霧がかかって、
花を包んだ霞《かすみ》がぼうとその中を白くしている美は、
秋の夜の美よりも身にしむことが深い。
隅《すみ》の欄干によりかかって、
しばらく源氏は庭をながめていた。
中納言の君は見送ろうとして妻戸をあけてすわっていた。
「あなたとまた再会ができるかどうか。
むずかしい気のすることだ。
こんな運命になることを知らないで、
逢えば逢うことのできたころにのんきでいたのが残念だ」
と源氏は言うのであったが、
女は何も言わずに泣いているばかりである。
若君の乳母《めのと》の宰相の君が使いになって、
大臣夫人の宮の御挨拶《あいさつ》を伝えた。
少納言のホームページ 源氏物語&古典 syounagon-web ぜひご覧ください🪷
https://syounagon-web-1.jimdosite.com
【源氏物語 第十二帖 須磨(すま)】
朧月夜との仲が発覚し、追いつめられた光源氏は
後見する東宮に累が及ばないよう、
自ら須磨への退去を決意する。
左大臣家を始めとする親しい人々や藤壺に暇乞いをし、
東宮や女君たちには別れの文を送り、
一人残してゆく紫の上には領地や財産をすべて託した。
須磨へ発つ直前、桐壺帝の御陵に参拝したところ、
生前の父帝の幻がはっきり目の前に現れ、
源氏は悲しみを新たにする。
須磨の侘び住まいで、
源氏は都の人々と便りを交わしたり
絵を描いたりしつつ、淋しい日々を送る。
つれづれの物語に明石の君の噂を聞き、
また都から頭中将がはるばる訪ねてきて、
一時の再会を喜び合った。
やがて三月上巳の日、
海辺で祓えを執り行った矢先に
恐ろしい嵐が須磨一帯を襲い、
源氏一行は皆恐怖におののいた。
💠聴く古典文学📚少納言チャンネルは、聴く古典として動画を作っております。ぜひチャンネル登録お願いします🌷