2023-07-07から1日間の記事一覧
こうした運命に出逢う日を予知していましたなら、 どこよりも私はあなたとごいっしょの旅に 出てしまうべきだったなどと、 つれづれさから 癖になりました物思いの中にはそれがよく思われます。 心細いのです。 伊勢人の 波の上漕ぐ 小船《をぶね》にも うき…
源氏の手紙に衝動を受けた御息所は、 あとへあとへと書き続《つ》いで、 白い支那《しな》の紙 四、五枚を巻き続けてあった。 書風も美しかった。 愛していた人であったが、その人の過失的な行為を、 同情の欠けた心で見て恨んだりしたことから、 御息所も恋…
源氏が須磨へ移った初めの記事の中に 筆者は書き洩《も》らしてしまったが 伊勢の御息所のほうへも源氏は使いを出したのであった。 あちらからもまたはるばると 文《ふみ》を持って使いがよこされた。 熱情的に書かれた手紙で、典雅な筆つきと見えた。 どう…
尚侍《ないしのかみ》のは、 浦にたく あまたにつつむ 恋なれば 燻《くゆ》る煙よ行く方《かた》ぞなき 今さら申し上げるまでもないことを略します。 という短いので、 中納言の君は悲しんでいる尚侍の哀れな状態を報じて来た。 身にしむ節々《ふしぶし》も…
入道の宮も東宮のために源氏が逆境に沈んでいることを 悲しんでおいでになった。 そのほか源氏との宿命の深さから思っても 宮のお歎《なげ》きは、複雑なものであるに違いない。 これまではただ世間が恐ろしくて、 少しの憐《あわれ》みを見せれば、 源氏は…
鏡の影ほどの確かさで 心は常にあなたから離れないだろうと言った、 恋しい人の面影はその言葉のとおりに目から離れなくても、 現実のことでないことは何にもならなかった。 源氏がそこから出入りした戸口、 よりかかっていることの多かった柱も見ては 胸が…
京では須磨の使いのもたらした手紙によって 思い乱れる人が多かった。 二条の院の女王《にょおう》は 起き上がることもできないほどの衝撃を受けたのである。 焦れて泣く女王を 女房たちはなだめかねて心細い思いをしていた。 源氏の使っていた手道具、 常に…
源氏は京へ使いを出すことにした。 二条の院へと入道の宮へとの手紙は容易に書けなかった。 宮へは、 松島の あまの苫屋《とまや》も いかならん 須磨の浦人 しほたるる頃《ころ》 いつもそうでございますが、 ことに五月雨にはいりましてからは、 悲しいこ…