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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【平家物語37 第2巻 新大納言流罪】〜The Tale of the Heike🌊

六月二日。その日は新大納言成親流罪の日である。

都を逐《お》われる日なので、特に許されて、

客間で食事を饗せられた。

さすがに万感胸に迫ってか、

成親はろくろく箸《はし》もとらなかった。

するうちに早くも迎えの車がやってきて、早く早くとせきたてる。

成親は後髪を引かれる想いで車に乗った。

「もう一度だけ、小松殿にお逢いしたいのだが」

といってみたが、許されるわけはなく、

囲りはものものしい武装兵ばかりがびっしりと取り囲み、

一人の縁者、家来の姿もない。

「たとえ、重罪で遠国に流されるにしても、

 一人の家来もないとは何と心細いことか」

成親が、車の中で、そっとつぶやくのを耳にして、

守護の家来も今更気の毒に思うのであった。

 朱雀大路《すざくおおじ》を南に下ると、

やがて内裏が見えてきた。

成親は車の中からよそながら別れを告げていたが、

大納言流罪の知らせに、集っていた雑色《ぞうしき》牛飼達は、

かつてはあれほどの権勢を誇った大納言が、

今は一人淋しく都を去ってゆく様子に涙を流さぬ者はいなかった。

まして、都に残る北の方、幼い子供達の行末を考えると、

余りの痛わしさに、顔をそむけてしまう者もあった。

やがて車は鳥羽殿を過ぎた。

法皇が鳥羽殿に行幸の際は

必ず供奉《ぐぶ》のうちに入っていた成親であった。

それが、余りにも激しい身の上の変化である。

華やかなりし時代、

成親の別荘であった洲浜殿《すはまどの》もよそ目に見て通った。

過ぎ去った日の一こま一こまが、彼の目の前を、

あわただしく通り過ぎるうちに、いつか車は南門を出た。

ここからは船旅である。

「これから、どこへいくのじゃ、どうせ殺されるものならば、

 都には余り遠くないこのあたりで殺して欲しいものを」

大納言の気持もさこそとうなずかれても、

命令のない者を勝手に殺すわけにはゆかない。

やがて成親は警固の一人難波次郎 経遠《つねとお》を呼び寄せ、

「もしこのあたりに、わたしの身内の者か、

 大納言家に関りのある者がおりましたら、

 探して来て貰いたいのです。

 舟に乗る前に言っておきたいこともあるので」

といってたのんだ。

 経遠があたりを走り廻って聞き歩いたが、

名乗り出るものは一人もいない。

皆は、後の祟《たた》りを恐れて近寄らないのである。

これを聞いて成親はひどくがっかりしたらしい。

「あの当時は、私についていた者は一、二千人もあったろうか?

 いやそれではきかなかったかも知れない。

 だのに、今となっては、他《よそ》ながらでも、

 私の姿を見送ってくれる者もいないのだ」

と泣く姿には、経遠始め、物に動ぜぬ荒武者までが、

ついもらい泣きをしてしまうほどであった。

 

成親の乗った船は、普通の屋形船だったが、

身に添う者は唯涙ばかり、

荒々しい兵士達に囲まれて海上を渡る成親の目には、

熊野詣での華やかなりし航海の想い出が、

ありありと見えてくるのである。

 大物《だいもつ》の浦に着いた成親一行に、

京都からの使いが来たのが、六月三日である。

 死罪を一等免ぜられて、

備前《びぜん》の児島《こじま》へ流罪という知らせであった。

同時に、重盛から成親宛の親書があって、

「何とか、もう少し都に近い山里にもと奔走したのですが、

 どうも残念な結果になってしまい、申しわけない次第です。

 しかしお命だけは、確かにお預りしましたから、

 それだけを心頼みでいて下さい」

という便りで、同じく難波経遠にも、

くれぐれも待遇に注意するようにという伝言があった。

更に、身の囲《まわ》りのこまごました仕度までも、

何くれとなく気を配ってくれたのであった。

 

いよいよ配所が決ってみると、

さすがに一縷の望みも絶たれたという感じで、

成親は今更に法皇始め都に残してきた妻子のことがなつかしく、

二度と再び生きて逢うこともできまいと思うだけに、

その想いは切々と心に泌みとおるのであった。

 といっていくら泣いてもわめいても、

幽囚の身は如何《いかん》ともしがたく、

やがて、大物の浦から何日か船旅をつづけて、

備前の児島に着いたのである。

 小さい島はどこでも同じようであるが、

後は山、前は海、磯《いそ》の松風、波の音、

捕われ人の心を慰めるには、

余りにもわびしい寒々とした景色であった。

🌊🎼ささやかな嘆き written by ゆうり

 

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