源氏が日を暮らし侘《わ》びているころ、
須磨の謫居《たっきょ》へ左大臣家の三位中将が訪ねて来た。
現在は参議になっていて、
名門の公子でりっぱな人物であるから
世間から信頼されていることも格別なのであるが、
その人自身は今の社会の空気が気に入らないで、
何かのおりごとに源氏が恋しくなるあまりに、
そのことで罰を受けても自分は悔やまないと決心して
にわかに源氏と逢うために京を出て来たのである。
親しい友人であって、
しかも長く相見る時を得なかった二人は
たまたま得た会合の最初にまず泣いた。
宰相は源氏の山荘が非常に唐風であることに気がついた。
絵のような風光の中に、
竹を編んだ垣《かき》がめぐらされ、
石の階段、
松の黒木の柱などの用いられてあるのがおもしろかった。
源氏は黄ばんだ薄紅の服の上に、
青みのある灰色の狩衣、
指貫《さしぬき》の質素な装いでいた。
わざわざ都風を避けた服装も
いっそう源氏を美しく引き立てて見せる気がされた。
🌿🎼 #夏の穏やかな海辺で written by #蒲鉾さちこ🌿
【源氏物語 第十二帖 須磨(すま)】
朧月夜との仲が発覚し、追いつめられた光源氏は
後見する東宮に累が及ばないよう、
自ら須磨への退去を決意する。
左大臣家を始めとする親しい人々や藤壺に暇乞いをし、
東宮や女君たちには別れの文を送り、
一人残してゆく紫の上には領地や財産をすべて託した。
須磨へ発つ直前、桐壺帝の御陵に参拝したところ、
生前の父帝の幻がはっきり目の前に現れ、
源氏は悲しみを新たにする。
須磨の侘び住まいで、
源氏は都の人々と便りを交わしたり
絵を描いたりしつつ、淋しい日々を送る。
つれづれの物語に明石の君の噂を聞き、
また都から頭中将がはるばる訪ねてきて、
一時の再会を喜び合った。
やがて三月上巳の日、
海辺で祓えを執り行った矢先に
恐ろしい嵐が須磨一帯を襲い、
源氏一行は皆恐怖におののいた。
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