2023-05-30から1日間の記事一覧
菊 music by 西本康佑 中宮は三条の宮へお帰りになるのである。 お迎えに兄君の兵部卿の宮がおいでになった。 はげしい風の中に雪も混じって散る日である。 すでに古御所《ふるごしょ》になろうとする 人少なさが感ぜられて静かな時に、 源氏の大将が中宮の…
追憶 music by しゃろう 崩御後の御仏事なども多くの御遺子たちの中で 源氏は目だって誠意のある弔い方をした。 それが道理ではあるが源氏の孝心に同情する人が多かった。 喪服姿の源氏がまた限りもなく清く見えた。 去年今年と続いて不幸にあっていること…
とどまる哀しみ music byミルアージュ 夜がふけてから東宮はお帰りになった。 還啓に供奉《ぐぶ》する公卿の多さは 行幸にも劣らぬものだった。 御秘蔵子の東宮のお帰りになったのちの院の御心は 最もお悲しかった。 皇太后もおいでになるはずであったが、 …
涙雨 music by ミルアージュ 風采《ふうさい》もごりっぱで、 以前よりもいっそうお美しくお見えになる帝に 院は御満足をお感じになり、 頼もしさもお覚えになるのであった。 高貴な御身でいらせられるのであるから、 感情のままに 父帝のもとにとどまって…
涙雨 music by ミルアージュ 西の対へも行かずに終日物思いをして源氏は暮らした。 旅人になった御息所は まして堪えがたい悲しみを 味わっていたことであろう。 院の御病気は十月にはいってから御重体になった。 この君をお惜しみしていないものはない。 …
斎宮は十四でおありになった。 きれいな方である上に 錦繍《きんしゅう》に包まれておいでになったから、 この世界の女人《にょにん》とも見えないほどお美しかった。 斎王の美に御心《みこころ》を打たれながら、 別れの御櫛《みぐし》を髪に挿《さ》してお…
Regret music by gooset 恋をすべきでない人に好奇心の動くのが源氏の習癖で、 顔を見ようとすれば、 よくそれもできた斎宮の幼少時代を そのままで終わったことが残念である。 けれども運命は どうなっていくものか予知されないのが 人生であるから、 ま…
十六日に桂川で斎宮の御禊《みそぎ》の式があった。 常例以上はなやかにそれらの式も行なわれたのである。 長奉送使《ちょうぶそうし》、 その他官庁から参列させる高官も 勢名のある人たちばかりを選んであった。 院が御後援者でいらせられるからである。 …
男はそれほど思っていないことでも 恋の手紙には感情を誇張して書くものであるが、 今の源氏の場合は、 ただの恋人とは決して思っていなかった御息所が、 愛の清算をしてしまったふうに 遠国へ行こうとするのであるから、 残念にも思われ、 気の毒であるとも…
この人を永久につなぐことのできた糸は、 自分の過失で切れてしまったと悔やみながらも、 明るくなっていくのを恐れて源氏は去った。 そして二条の院へ着くまで絶えず涙がこぼれた。 女も冷静でありえなかった。 別れたのちの物思いを抱いて 弱々しく秋の朝…
若い殿上役人が始終二、三人連れで来ては ここの文学的な空気に浸っていくのを喜びにしているという、 この構えの中のながめは源氏の目にも確かに艶なものに見えた。 あるだけの恋の物思いを 双方で味わったこの二人のかわした会話は写しにくい。 ようやく白…