故人の愛した手まわりの品、
それから衣類などを、目に立つほどにはしないで上品に分けてやった。
源氏はこうした籠居《こもりい》を続けていられないことを思って、
院の御所へ今日は伺うことにした。
車の用意がされて、前駆の者が集まって来た時分に、
この家の人々と源氏の別れを同情してこぼす涙のような
時雨《しぐれ》が降りそそいだ。
木の葉をさっと散らす風も吹いていた。
源氏の居間にいた女房は非常に皆心細く思って、
夫人の死から日がたって、
少し忘れていた涙をまた滝のように流していた。
今夜から二条の院に源氏の泊まることを予期して、
家従や侍はそちらで主人を迎えようと、
だれも皆|仕度《したく》をととのえて帰ろうとしているのである。
今日ですべてのことが終わるのではないが非常に悲しい光景である。
大臣も宮もまた新しい悲しみを感じておいでになった。
宮へ源氏は手紙で御|挨拶《あいさつ》をした。
院が非常に逢《あ》いたく思召《おぼしめ》すようですから、
今日はこれからそちらへ伺うつもりでございます。
かりそめにもせよ
私がこうして外へ出かけたりいたすようになってみますと、
あれほどの悲しみをしながらよくも生きていたというような
不思議な気がいたします。
お目にかかりましては いっそう悲しみに取り乱しそうな
不安がございますから上がりません。
というのである。
宮様のお心に悲しみがつのって涙で目もお見えにならない。
お返事はなかった。
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