陛下が寂しそうにばかりしておいでになるのが心苦しいことだし、
太政大臣が現在では欠けているのだから、
政務は皆私が見なければならなくて、
多忙なために家《うち》へ帰らない時の多いのを、
あなたから言えば例のなかったことで、
寂しく思うのももっともだけれど、
ほんとうはもうあなたの不安がることは何もありませんよ。
安心しておいでなさい。
大人になったけれどまだ少女のように思いやりもできず、
私を信じることもできない、可憐なばかりのあなたなのだろう」
などと言いながら、
優しく妻の髪を直したりして源氏はいるのであったが、
夫人はいよいよ顔を向こうへやってしまって何も言わない。
「若々しい我儘《わがまま》をあなたがするのも私のつけた癖なのだ」
歎息《たんそく》をして、
短い人生に愛する人からこんなにまで恨まれているのも
苦しいことであると源氏は思った。
「斎院との交際で何かあなたは疑っているのではないのですか。
それはまったく恋愛などではないのですよ。
自然わかってくるでしょうがね。
昔からあの人はそんな気のないいっぷう変わった女性なのですよ。
私の寂しい時などに手紙を書いてあげると、
あちらはひまな方だから時々は返事をくださるのです。
忠実に相手になってもくださらないと、
そんなことをあなたにこぼすほどのことでもないから、
いちいち話さないだけです。
気がかりなことではないと思い直してください」
などと言って、
源氏は終日夫人をなだめ暮らした。
🪻🎼#静かな夜長に written by #蒲鉾さちこ
🪻少納言のホームページ 源氏物語&古典 少納言の部屋🪷ぜひご覧ください🌿
https://syounagon.jimdosite.com
🪷聴く古典文学 少納言チャンネルは、聴く古典文学動画。チャンネル登録お願いします🪷