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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【平家物語33-2 第2巻 少将乞請②〈しょうしょうこいうけ〉】〜The Tale of the Heike🥀

中門に入った宰相に、清盛は目通りを許さなかった。

仕方なく宰相は源《げん》大夫判官 季貞《すえさだ》を通じて、

言葉を伝えて貰う事にした。

「つまらない人間と関り合いになったことは、

 返すがえすも残念ですが、これもいたし方ありません。

 成経に縁づいた娘が、身重の体で、

 実は今朝から、この嘆きのため、息も絶えだえなのです。

 如何《いかが》でございましょうか、

 少将一人生きていても如何《どう》なるものでもありません、

 暫くこの教盛にお預け下さらぬか、

 決して間違いなどは起さぬように厳重に監視いたします」

これを聞いて清盛は、

「又教盛のあれが始ったな、全くわけの判らんことばかり申して」

とろくすっぽ返事もしなかったが、暫くして、

「新大納言成親は、

 平家一門を滅して天下を乱そうとしたのじゃ、

 少将は、この成親の正真正銘の嫡子じゃ、

 宰相が彼と親しかろうが、親しくなかろうが、

 そんな事は知ったことではないが、

 それ程の重罪人をかばおうと思っても無駄じゃ。

 第一この反乱がもし成功していたら、

 今頃、宰相だってそうやって、

 のこのこと歩き廻ってなどおられなかった筈じゃからなあ」

清盛の言葉を宰相に伝えると、ひどく失望した様子で、

もう一度伝言を頼んだ。

「保元、平治の合戦以来、

 いつも殿のお命に代る覚悟で働いてきました私、

 この後も、一度び事が起らば、必ずご馬前にはせ参ずる覚悟で、

 又私が年老いて役に立たなくなっても、

 子供達が何人かおりますから、必ずや、一方の御楯《みたて》となって、

 手となり足となるつもりでいますのに、

 成経を一時お預け下さることさえ、お聞き入れないとは、

 どうやら、この教盛に二心あるとでもお思いとしか受取れません。

 それ程、ご信用がないのでしたら、

 この世にあって、何の生き甲斐がございます事やら、

 それならば、出家入道し、どこかの山里に庵を結んで、

 静かに菩提《ぼだい》をとむらいます。

 世にあれば、望みもでき、望みもかなわなければ、

 恨みも起るものですから、仏の道に入ってしまえば、

 そんな気持も起らないでしょうから」

季貞は清盛に宰相の言葉を伝え、

「どうやら宰相は、本当に諦めてしまったらしいようで、

 どうにでもお気の済むようにといっていられます」

と言い添えた。

清盛もさすがに驚いて、

「いくらなんでも、出家までせずともよいわ。

 仕方がない、少将を暫くの間、教盛に預けると申しておけ」

と漸くに折れた。

 

清盛の許しを聞いて、肩の重荷を下した教盛はしみじみと、

「全く子供など持つものではござらぬのう、

 娘婿《むすめむこ》だからこそ、これ程まで心を砕くので、

 全く赤の他人にはできぬことじゃのう」

と述懐した。

教盛の姿を見た少将は、走り寄ってたずねた。

「ご首尾は?」

「清盛公、かつてないお腹立ちで、お目通りも許されず、

 助命嘆願も受付けては下さらなかったのを、

 わしが出家入道するとまで申したもので、

 仕方なく、一時、私の家にいる事は許して下さった。

 しかし、これも長続きするかどうかはわからぬのう」

と暗然たる面持ちであった。

「いや、それはそれで、一時にせよ、おかげを持ちまして、

 命は伸びたのでございますが、父の方の事は如何なったか、

 お聞きにはなりませんでしたか?」

「そこまでは、とても手が廻らなかったのじゃよ」

少将は、さめざめと涙を流し、

「命を長らえさせて頂いたご恩は、何とも有難いのですけれど、

 命の惜しいのも、

 もう一度、生きて父に逢いたかったからのことで、

 父が斬られては、私一人生きて何になりましょう。

 それよりも、生きるも死ぬも、

 一緒にお考え下さるように申し上げて下さいませぬか」

「さよう、のう、そなたのことばかり考えていたから、

 つい父上の事にまで思い至らなかったが、

 聞くところに依れば、小松殿が今朝、

 いろいろ手を尽して助命をお願いしていたらしいから、

 ここ暫くはお命に別条ありますまい」

「それは、又何と有難い事で」

少将は、今度は、嬉しさに泣くなく手を合せた。この窮境におち入っても、尚、親の身の上に思いをはせる心は、

やはり誠の親子なれで、教盛も、貰い泣きしながら、

やはり持つべき者はわが子だと、つくづく思ったのである。

🥀🎼#凍える雨 written by #Heitaro Ashibe

 

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