親王になることをしきりにお勧めあそばされたが、
そうして帝の御後見をする政治家がいなくなる、
中納言が今度大納言になって
右大将を兼任することになったが、
この人がもう一段昇進したあとであったなら、
親王になって閑散な位置へ退くのもよいと源氏は思っていた。
源氏はこんなふうな態度を
帝がおとりあそばすことになったことで苦しんでいた。
故中宮のためにもおかわいそうなことで、
また陛下には
御煩悶《はんもん》をおさせする結果になっている秘密奏上を
だれがしたかと怪しく思った。
命婦は御匣殿《みくしげどの》がほかへ移ったあとの御殿に
部屋をいただいて住んでいたから、
源氏はそのほうへ訪《たず》ねて行った。
「あのことをもし何かの機会に
少しでも陛下のお耳へお入れになったのですか」
と源氏は言ったが、
「私がどういたしまして。
宮様は陛下が秘密をお悟りになることを
非常に恐れておいでになりましたが、
また一面では陛下へ絶対にお知らせしないことで
陛下が御仏の咎《とが》をお受けになりはせぬかと
御煩悶をあそばしたようでございました」
命婦はこう答えていた。
こんな話にも故宮の御感情のこまやかさが忍ばれて
源氏は恋しく思った。
🪷🎼アリウス written by sakunoken
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