「その山荘の人というのは、幸福な人であるばかりでなく、
すぐれた聡明《そうめい》な人らしいですね。
私に預けてくだすったのは男の子一人で
あの方の女の子もできていたら
どんなによかったろうと思う女の子をその人は生んで、
しかも自分がつれていては子供の不幸になることをよく理解して、
りっぱな奥さんのほうへその子を渡したことなどを、
感心なものだと私も話に聞きました」
こんな話を大宮はあそばした。
「女は頭のよさでどんなにも出世ができるものですよ」
などと内大臣は人の批評をしていたのであるが、
それが自家の不幸な話に移っていった。
「私は女御を完全でなくても、
どんなことも人より劣るような娘には
育て上げなかったつもりなんですが、
意外な人に負ける運命を持っていたのですね。
人生はこんなに予期にはずれるものかと私は悲観的になりました。
この子だけでも私は思うような幸運をになわせたい、
東宮の御元服はもうそのうちのことであろうかと、
心中ではその希望を持っていたのですが、
今のお話の明石の幸運女が生んだお后の候補者が
あとからずんずん生長してくるのですからね。
その人が後宮へはいったら、ましてだれが競争できますか」
大臣が歎息するのを宮は御覧になって、
「必ずしもそうとは言われませんよ。
この家からお后の出ないようなことは絶対にないと私は思う。
そのおつもりでなくなられた大臣も女御の世話を引き受けて
皆なすったのだものね。
大臣がおいでになったらこんな意外な結果は見なかったでしょう」
この問題でだけ大宮は源氏を恨んでおいでになった。
🪷🎼千年物語 written by のる
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