「もったいない。
私は仏様がお禁じになりました真言秘密の法も
陛下には御伝授申し上げました。
私個人のことで申し上げにくいことが何ございましょう。
この話は過去未来に広く関聯《かんれん》したことでございまして
お崩《かく》れになりました院、女院様、
現在国務をお預かりになる内大臣のおためにも
かえって悪い影響をお与えすることになるかもしれません。
老いた僧の身の私は
どんな難儀になりましても後悔などはいたしません。
仏様からこの告白はお勧めを受けてすることでございます。
陛下がお妊《はら》まれになりました時から、
故宮はたいへんな御心配をなさいまして、
私に御委託あそばしたある祈祷《きとう》がございました。
くわしいことは世捨て人の私に想像ができませんでございました。
大臣《おとど》が一時失脚をなさいまして
難儀にお逢いになりましたころ宮の御恐怖は非常なものでございまして、
重ねてまたお祈りを私へ仰せつけになりました。
大臣《おとど》がそれをお聞きになりますと、
また御自身のほうからも
同じ御祈祷をさらに増してするようにと御下命がございまして、
それは御位にお即《つ》きあそばすまで続けました祈祷でございました。
そのお祈りの主旨はこうでございました」
と言って、
くわしく僧都の奏上するところを聞こし召して、
お驚きになった帝の御心《みこころ》は
恥ずかしさと、恐しさと、悲しさとの入り乱れて名状しがたいものであった。
🪷🎼メランコリアに寄す written by のる
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