車の数の多くなることも人目を引くことであるし、
二度に分けて立たせることも
面倒なことであるといって、
迎えに来た人たちもまた
非常に目だつことを恐れるふうであったから、
船を用いてそっと明石親子は立つことになった。
午前八時に船が出た。
昔の人も身にしむものに見た明石の浦の朝霧に
船の隔たって行くのを見る入道の心は、
仏弟子《ぶつでし》の超越した境地に
引きもどされそうもなかった。
ただ呆然《ぼうぜん》としていた。
長い年月を経て都へ帰ろうとする尼君の心もまた悲しかった。
かの岸に 心寄りにし 海人船《あまぶね》の
そむきし方に 漕《こ》ぎ帰るかな
と言って尼君は泣いていた。
明石は、
いくかへり 行きかふ秋を 過ごしつつ
浮き木に乗りて われ帰るらん
と言っていた。
追い風であって、
予定どおりに一行の人は京へはいることができた。
車に移ってから
人目を引かぬ用心をしながら 大井の山荘へ行ったのである。
🪷菊 written by 西本康佑🪷
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