2023-07-22から1日間の記事一覧
源氏は懐紙に書くのであった。 みをつくし 恋ふるしるしに ここまでも めぐり逢ひける 縁《えに》は深しな 惟光に渡すと、 明石へついて行っていた男で、 入道家の者と心安くなっていた者を使いにして 明石の君の船へやった。 派手な一行が浪速を通って行く…
こちらの派手な参詣ぶりに畏縮《いしゅく》して 明石の船が浪速のほうへ行ってしまったことも惟光が告げた。 その事実を少しも知らずにいたと 源氏は心で憐《あわれ》んでいた。 初めのことも今日のことも住吉の神が 二人を愛しての導きに違いないと思われて…
こんな時に自分などが貧弱な御幣《みてぐら》を差し上げても 神様も目にとどめにならぬだろうし、 帰ってしまうこともできない、 今日は浪速《なにわ》のほうへ船をまわして、 そこで祓《はら》いでもするほうがよいと思って、 明石の君の乗った船はそっと住…
大臣家で生まれた若君は馬に乗せられていて、 一班ずつを揃《そろ》えの衣裳にした幾班かの 馬添い童《わらわ》がつけられてある。 最高の貴族の子供というものはこうしたものであるというように、 多数の人から大事に扱われて通って行くのを見た時、 明石の…
明石に来ていた人たちが昔の面影とは違ったはなやかな姿で 人々の中に混じっているのが船から見られた。 若い顕官たち、殿上役人が競うように凝った姿をして、 馬や鞍《くら》にまで華奢《かしゃ》を尽くしている一行は、 田舎《いなか》の見物人の目を楽し…
さすがによそながら巡り合うだけの宿命に つながれていることはわかるのであったが、 笑って行った侍さえ幸福に輝いて見える日に、 罪障の深い自分は何も知らずに来て 恥ずかしい思いをするのであろうと思い続けると 悲しくばかりなった。 深い緑の松原の中…