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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

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夕顔と頭中将との姫君を引き取ることを望む源氏【源氏物語53 第4帖 夕顔19】夕顔の思い出を話す右近。 砧の音さえ恋しく思う源氏


小さい子を一人 行方不明にしたと言って

中将が憂鬱《ゆううつ》になっていたが、

そんな小さい人があったのか」

と問うてみた。

「さようでございます。一昨年の春お生まれになりました。

 お嬢様で、とてもおかわいらしい方でございます」

「で、その子はどこにいるの、

 人には私が引き取ったと知らせないようにして

 私にその子をくれないか。

 形見も何もなくて寂しくばかり思われるのだから、

 それが実現できたらいいね」

 源氏はこう言って、

また、

「頭中将にもいずれは話をするが、

 あの人をああした所で死なせてしまったのが私だから、

 当分は恨みを言われるのがつらい。

 私の従兄《いとこ》の中将の子である点からいっても、

 私の恋人だった人の子である点からいっても、

 私の養女にして育てていいわけだから、

 その西の京の乳母にも何かほかのことにして、

 お嬢さんを私の所へつれて来てくれないか」

 と言った。

 

「そうなりましたらどんなに結構なことでございましょう。

 あの西の京でお育ちになってはあまりにお気の毒でございます。

 私ども若い者ばかりでしたから、

 行き届いたお世話ができないということで

 あっちへお預けになったのでございます」

 と右近は言っていた。

 

静かな夕方の空の色も身にしむ九月だった。

庭の植え込みの草などがうら枯れて、

もう虫の声もかすかにしかしなかった。

そして もう少しずつ紅葉の色づいた絵のような景色を

右近はながめながら、

思いもよらぬ貴族の家の女房になっていることを感じた。

 

五条の夕顔の花の咲きかかった家は

思い出すだけでも恥ずかしいのである。

竹の中で家鳩《いえばと》という鳥が

調子はずれに鳴くのを聞いて源氏は、

あの某院でこの鳥の鳴いた時に夕顔のこわがった顔が

今も可憐《かれん》に思い出されてならない。

 

「年は幾つだったの、

 なんだか普通の若い人よりもずっと若いようなふうに見えたのも

 短命の人だったからだね」

 

「たしか十九におなりになったのでございましょう。

 私は奥様のもう一人のほうの乳母の忘れ形見でございましたので、

 三位《さんみ》様がかわいがってくださいまして、

 お嬢様といっしょに育ててくださいましたものでございます。

 そんなことを思いますと、

 あの方のお亡《な》くなりになりましたあとで、

 平気でよくも生きているものだと恥ずかしくなるのでございます。

 弱々しいあの方をただ一人のたよりになる御主人と思って

 右近は参りました」

 

「弱々しい女が私はいちばん好きだ。

 自分が賢くないせいか、あまり聡明《そうめい》で、

 人の感情に動かされないような女はいやなものだ。

 どうかすれば人の誘惑にもかかりそうな人でありながら、

 さすがに慎《つつ》ましくて恋人になった男に

 全生命を任せているというような人が私は好きで、

 おとなしいそうした人を自分の思うように

 教えて成長させていければよいと思う」

源氏がこう言うと、

「そのお好みには遠いように思われません方の、

 お亡《かく》れになったことが残念で」

と右近は言いながら泣いていた。

 

空は曇って冷ややかな風が通っていた。

 寂しそうに見えた源氏は、

『見し人の 煙を雲と ながむれば

   夕《ゆふべ》の空も むつまじきかな』

と独言《ひとりごと》のように言っていても、

返しの歌は言い出されないで、

右近は、こんな時に二人そろっておいでになったらという思いで

胸の詰まる気がした。

源氏はうるさかった砧《きぬた》の音を思い出しても

その夜が恋しくて、

「八月九月|正長夜《まさにながきよ》

  千声万声《せんせいばんせい》無止時《やむときなし》

と歌っていた。

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