2023-08-28から1日間の記事一覧
伊予介《いよのすけ》が十月の初めに四国へ立つことになった。 細君をつれて行くことになっていたから、 普通の場合よりも多くの餞別《せんべつ》品が源氏から贈られた。 またそのほかにも秘密な贈り物があった。 ついでに空蝉《うつせみ》の脱殻《ぬけがら…
源氏は夕顔の四十九日の法要を そっと叡山《えいざん》の法華堂《ほっけどう》で 行なわせることにした。 それはかなり大層なもので、 上流の家の法会《ほうえ》としてあるべきものは 皆用意させたのである。 寺へ納める故人の服も新調したし寄進のものも大…
今も伊予介の家の小君は 時々源氏の所へ行ったが、 以前のように源氏から手紙を託されて来るようなことがなかった。 自分の冷淡さに懲りておしまいになったのかと思って、 空蝉《うつせみ》は心苦しかったが、 源氏の病気をしていることを聞いた時にはさすが…
小さい子を一人 行方不明にしたと言って 中将が憂鬱《ゆううつ》になっていたが、 そんな小さい人があったのか」 と問うてみた。 「さようでございます。一昨年の春お生まれになりました。 お嬢様で、とてもおかわいらしい方でございます」 「で、その子はど…
左大臣も徹底的に世話をした。 大臣自身が二条の院を見舞わない日もないのである。 そしていろいろな医療や祈祷《きとう》をしたせいでか、 二十日ほど重態だったあとに余病も起こらないで、 源氏の病気は次第に回復していくように見えた。 行触《ゆきぶ》れ…
「もう明け方に近いころだと思われます。 早くお帰りにならなければいけません」 惟光《これみつ》がこう促すので、源氏は顧みばかりがされて、 胸も悲しみにふさがらせたまま帰途についた。 露の多い路《みち》に厚い朝霧が立っていて、 このままこの世でな…
中納言(源氏の親友、葵上の兄)の姫君は、 弘徽殿《こきでん》の女御《にょご》と呼ばれていた。 太政大臣の猶子《ゆうし》になっていて、 その一族がすばらしい背景を作っているはなやかな後宮人であった。 陛下もよいお遊び相手のように思召された。 「兵…