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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

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空蝉と軒端荻に手紙を出す源氏【源氏物語 54 第5帖 夕顔20】 伊予に同行する空蝉は源氏に便りを出す📨 源氏はどちらにも心惹かれる


今も伊予介の家の小君は 時々源氏の所へ行ったが、

以前のように源氏から手紙を託されて来るようなことがなかった。

自分の冷淡さに懲りておしまいになったのかと思って、

空蝉《うつせみ》は心苦しかったが、

源氏の病気をしていることを聞いた時にはさすがに歎《なげ》かれた。

それに夫の任国へ伴われる日が近づいてくるのも心細くて、

自分を忘れておしまいになったかと試みる気で、

このごろの御様子を承り、お案じ申し上げてはおりますが、

それを私がどうしてお知らせすることができましょう。

『問はぬをも などかと問はで 程ふるに

 いかばかりかは 思ひ乱るる』

『苦しかるらん 君よりも われぞ 益田《ますだ》の

 いける甲斐《かひ》なき』

という歌が思われます。

こんな手紙を書いた。

 

思いがけぬあちらからの手紙を見て源氏は珍しくもうれしくも思った。

この人を思う熱情も決して醒《さ》めていたのではないのである。

生きがいがないとはだれが言いたい言葉でしょう。

『うつせみの 世はうきものと 知りにしを

 また言の葉に かかる命よ』

はかないことです。

病後の慄《ふる》えの見える手で乱れ書きをした消息は美しかった。

《せみ》の脱殻《ぬけがら》が忘れずに歌われてあるのを、

女は気の毒にも思い、うれしくも思えた。

こんなふうに手紙などでは好意を見せながらも、

これより深い交渉に進もうという意思は空蝉になかった。

理解のある優しい女であったという思い出だけは

源氏の心に留めておきたいと願っているのである。

もう一人の女は蔵人《くろうど》少将と結婚したという噂を

源氏は聞いた。

それはおかしい、処女でない新妻を少将はどう思うだろうと、

その夫に同情もされたし、

またあの空蝉の継娘《ままむすめ》はどんな気持ちでいるのだろうと、

それも知りたさに小君を使いにして手紙を送った。

 

死ぬほど煩悶《はんもん》している私の心はわかりますか。

『ほのかにも 軒ばの荻《をぎ》を むすばずば

 露のかごとを 何にかけまし』

その手紙を枝の長い荻《おぎ》につけて、

そっと見せるようにとは言ったが、

源氏の内心では粗相《そそう》して少将に見つかった時、

妻の以前の情人の自分であることを知ったら、

その人の気持ちは慰められるであろうという高ぶった考えもあった。

しかし小君は少将の来ていないひまをみて

手紙の添った荻の枝を女に見せたのである。

恨めしい人ではあるが自分を思い出して情人らしい手紙を

送って来た点では憎くも女は思わなかった。

悪い歌でも早いのが取柄《とりえ》であろうと

書いて小君に返事を渡した。

『ほのめかす 風につけても 下荻《したをぎ》の

 半《なかば》は 霜にむすぼほれつつ』

下手《へた》であるのを洒落《しゃ》れた書き方で

紛らしてある字の品の悪いものだった。

灯《ひ》の前にいた夜の顔も連想《れんそう》されるのである。

碁盤を中にして慎み深く向かい合ったほうの人の姿態には

どんなに悪い顔だちであるにもせよ、

それによって男の恋の減じるものでないよさがあった。

一方は何の深味もなく、

自身の若い容貌《ようぼう》に誇ったふうだったと源氏は思い出して、

やはりそれにも心の惹《ひ》かれるのを覚えた。

まだ軒端の荻との情事は清算されたものではなさそうである。

 

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