「こちらへ」
と宮はお言いになって、
お居間の中の几帳を隔てた席へ若君は通された。
「あなたにはあまり逢いませんね。
なぜそんなにむきになって学問ばかりをおさせになるのだろう。
あまり学問のできすぎることは不幸を招くことだと
大臣も御体験なすったことなのだけれど、
あなたをまたそうおしつけになるのだね、
わけのあることでしょうが、
ただそんなふうに閉じ込められていて
あなたがかわいそうでならない」
と内大臣は言った。
「時々は違ったこともしてごらんなさい。
笛だって古い歴史を持った音楽で、
いいものなのですよ」
内大臣はこう言いながら笛を若君へ渡した。
若々しく朗らかな音《ね》を吹き立てる笛がおもしろいために
しばらく絃楽のほうはやめさせて、
大臣はぎょうさんなふうでなく拍子を取りながら、
「萩《はぎ》が花ずり」(衣がへせんや、わが衣は野原 篠原《しのはら》萩の花ずり)など歌っていた。
「太政大臣も音楽などという芸術がお好きで、
政治のほうのことからお脱《ぬ》けになったのですよ。
人生などというものは、
せめて好きな楽しみでもして暮らしてしまいたい」
と言いながら甥《おい》に杯を勧めなどしているうちに
暗くなったので灯《ひ》が運ばれ、
湯|漬《づ》け、菓子などが皆の前へ出て食事が始まった。
姫君はもうあちらへ帰してしまったのである。
しいて二人を隔てて、
琴の音すらも若君に聞かせまいとする内大臣の態度を、
大宮の古女房たちはささやき合って、
「こんなことで近いうちに悲劇の起こる気がします」
とも言っていた。
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