七歳から夜も昼も父帝のおそばにいて、
源氏の言葉はことごとく通り、
源氏の推薦はむだになることもなかった。
官吏はだれも源氏の恩をこうむらないものはないのである。
源氏に対して感謝の念のない者はないのである。
大官の中にも弁官の中にもそんな人は多かった。
それ以下は無数である。
皆が皆恩を忘れているのではないが、
報復に手段を選ばない恐ろしい政府をはばかって、
現在の源氏に好意を表示しに来る人はないのである。
社会全体が源氏を惜しみ、
陰では政府をそしる者、恨む者はあっても、
自己を犠牲にしてまで、源氏に同情しても、
それが源氏のために何ほどのことにもならぬと思うのであろうが、
恨んだりすることは紳士らしくないことであると思いながらも、
源氏の心にはつい恨めしくなる人たちもさすがに多くて、
人生はいやなものであると何につけても思われた。
【源氏物語 第十二帖 須磨(すま)】
朧月夜との仲が発覚し、追いつめられた光源氏は
後見する東宮に累が及ばないよう、
自ら須磨への退去を決意する。
左大臣家を始めとする親しい人々や藤壺に暇乞いをし、
東宮や女君たちには別れの文を送り、
一人残してゆく紫の上には領地や財産をすべて託した。
須磨へ発つ直前、桐壺帝の御陵に参拝したところ、
生前の父帝の幻がはっきり目の前に現れ、
源氏は悲しみを新たにする。
須磨の侘び住まいで、
源氏は都の人々と便りを交わしたり
絵を描いたりしつつ、淋しい日々を送る。
つれづれの物語に明石の君の噂を聞き、
また都から頭中将がはるばる訪ねてきて、
一時の再会を喜び合った。
やがて三月上巳の日、
海辺で祓えを執り行った矢先に
恐ろしい嵐が須磨一帯を襲い、
源氏一行は皆恐怖におののいた。
💠🎼忘れられた場所 written by ハシマミ💠
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